●東欧で学ぶ日本人

上:おっしゃる通りです。フィリピンの国立大学卒の看護師の月給は、本国では約6万円で、都内なら初任給で30万円弱。医療関係者の注目度は高く、超高齢社会での目玉になるはずでした。しかし、昨年のドゥテルテ大統領の訪中以来、中国に行く看護師が増えているようです。

成毛:言葉の壁もありますね。日本語は英語圏の人からしたらなじみにくいでしょう。

上:コストが安いところで養成された専門家が先進国に流れるという動きは、実は医学教育でも起こっています。現在、東欧で日本の医学生が400人も学んでいます。学費が安く、しかも、EU共通免許が取れる。専門家となる人材は、日本からも流出しようとしています。

成毛:すでに、日本を出た人たちも多いでしょう。自宅の周りは、画廊や画家、芸術家が多く住んでいますが、その子息は8割がた、海外で学んでいます。

上:私の周囲も同様です。日本でトップレベルといわれる学校と、海外のそれとでは、天地の開きがあると聞いています。
成毛:流出していく人を止める手立てはない。国として、沈没しかけていますよね。少子高齢化の影響が大きすぎて、グローバルには全くついていけなくなっていく。圧倒的な差が開きつつあることに気づいていないのは、日本だけでしょう。

 先日、引っ越しで家具を買い替えたんですが、家電製品は国産を選びませんでした。製品の概念が進化していく中、日本企業はそうした開発力を失ったと考えるからです。電気自動車ですら、日本はあと3年で中国に追い抜かれると見ています。

●情報量が格差を生む

上:世界との格差が広がりつつありますね。

成毛:その格差は、貧富の差ではなく、情報量と知識量の差だと思います。IT社会において、さらに加速していくでしょう。

 1割の特権階級に9割が戦いを挑む、という図式は過去のもので、情報を得ている少数が多数を圧倒している。日本だけではなく、アメリカやヨーロッパ、中国、シンガポール、全世界で起こっていることと思います。

上:医師にも同様の図式が出来上がりつつあります。医療では、この10年でマーケットが拡大するのは、アジアと言われています。「ランセット」などの医学誌は、「グローバルヘルス」「プラネタリーヘルス」を打ち出して、フィリピンやベトナム、インドネシアを狙っています。論文もそれらの国の医師を筆頭にする。効率的に売り込みたいからです。

 けれども、情報に国境はなくなりつつある。流れさえ読んでいれば、一気に世界に打って出ることはできる。考えようによってはいい時代だと思います。

(構成/編集部・澤志保)

AERA 2017年6月12日号