少子高齢化が進み、非成長社会に突入した日本。いつまでも「先進国」のつもりでいるが、いたるところに綻びが生じている。医療破綻をテーマに、日本の未来を上昌広氏と成毛眞氏が話し合った。
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成毛:『病院は東京から破綻する』とは、衝撃的なタイトルですね。東京は日本中から人が集まっていて、医療面も安心感があるじゃないですか。ぼくの住んでいる地域は病院だらけで、ひとつの通りにコンビニより病院が多いくらいですよ。それが、東京から破綻していく、という。
上:そうなんです。誰もが、日本は先進国で、その中心の東京なら安心と思っている。ところが、医療の現状は全く違います。
診療報酬の話をしますと、たとえば、風邪の患者を一人診ると、4千~5千円くらいです。診療時間は3分くらいでしょうか。ところが、心臓麻痺の患者に30分、心臓マッサージを施しても2500円です。
成毛:30分も心臓マッサージをして、そんなに安いんですか。風邪の患者を診ていたほうが、よほどお金がいいわけですね。
上:ええ、不均衡ですよね。診療報酬は全国均一に国が定めているんです。額面に差もあるので、儲かる診療、儲からない診療が出てきます。さらに、公定価格ということは、ビジネスモデルが工場と同様です。土地や人件費、固定費が高い都心部が不利になります。つまり、東京がいちばん不利なんです。
社会保障費抑制のため、政府は診療報酬を引き下げましたが、固定費の高い病院にとっては痛手でした。固定費が幅広くかかる総合病院は特にシビアです。都内で財務状況がよいところは、がん研有明病院や榊原記念病院などの、専門病院がほとんどです。
●東京脱出する医師たち
成毛:著書内で言及されていた、「東京から医師が出ていく」ということにも驚きました。東京に日本中の医師が集まってきていると思っていましたから。
上:自己投資を考える優秀な若い医師は、すでに地方の人材に投資してくれる病院で働いています。大学病院は医師数が多く、飽和しているんです。思うように臨床経験も積めない。しかも、人件費を切り詰めているので、給与も決して高くありません。
一方、地方の意欲ある病院は給与面も恵まれている。臨床経験も多く積むことができる。患者数を医師数で割ると、東京のある大学病院は、仙台厚生病院の10分の1以下でした。
平日は主に地方で働き、週末だけ東京で生活する若い医師も増えています。