子どもの頃読んで忘れられない本、学生時代に影響を受けた本、社会人として共鳴した本……。本との出会い・つきあい方は人それぞれ。各界で活躍する方々に、自身の人生の読書遍歴を振り返っていただくAERAの「読書days」。今回は漫画家・コラムニストの辛酸なめ子さんです。
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最近、立て続けに2回もマルチ商法に勧誘されて、何を信じて良いかわからなくなり、癒やしを求めて手に取ったのが『大アルベルトゥスの秘法』。20代の頃愛読していた、中世ヨーロッパの魔術や錬金術についての本です。13世紀のスコラ哲学を代表する思想家で、普遍博士の称号を持つアルベルトゥス。この本に紹介されている秘法と、添えられている中世の版画が素敵で、笑えると言っては先人に失礼ですが、とにかく想像を超える療法が満載。
例えば「腐った木を虫歯に詰めれば治る」「トカゲの糞は肌を白くする」「イタチのピクピク動いている心臓を食べれば、未来を予知できるようになる」など……。どれも試す勇気はないですが、妙な説得力が。「一角獣の角は毒に効果がある」って、当時いたのでしょうか? マルチ商法のサプリより、個人的にはこちらを信じたいです。中世に生まれれば良かったかもしれません……。(終)
辛酸なめ子(しんさん・なめこ)
1974年東京都生まれ。漫画家、コラムニスト。著書に『霊的探訪』他
※AERA 2017年5月29日