2020年の東京五輪に向けて、新卒採用だけでなく、40代以上も含めた転職市場が活況だ。気になるのは転職後の年収のアップダウンだが、自己実現を優先しようと地方に移る人、お金に価値を置かない転職も増えている。AERA 5月22日号では「転職のリアル」を大特集。転職をまじめに考えている人、うっすら意識している人にも読んで欲しい。あなたにとって幸せな転職とは──。
* * *
パソコン画面にくぎ付けになった。
4月27日午後8時の入札期限から1分後。インターネットメディアを運営するIT企業リブセンスの転職サービス「転職ドラフト」のサイトに、「ドラフト結果」が一覧掲示された。
「最多指名25指名 ◯◯さん」「最高額1500万円 ◯◯さん」──。
入札結果が一目で、瞬時にわかる。
●転職の“見える化”
慢性的な人手不足が続く中、企業間の人材獲得競争は熾烈を極めている。欠員に伴う補充だけでなく、短期即戦力としての人材ヘッドハントなど企業が常時、転職者獲得を図る傾向が顕在化。その一方、転職をめぐるスタイルの多様化も進む。
企業側が採用したい人材を、年収額とともに競争入札方式で指名する転職ドラフト。“この指とまれ”を実践するのは、採用企業側でなく、転職者本人だ。従来の転職の常識を覆すビジネスモデルはどうやって生まれたのか。村上太一社長は言う。
「転職の過程をできる限り可視化することで、転職後のミスマッチを最小限にとどめたいと考えました」
村上社長は、早稲田大学1年生のときに起業。2011年12月に25歳1カ月で東証マザーズ上場。25歳11カ月で東証1部に市場変更した。ともに史上最年少の上場記録を更新した。
人材ビジネスに携わる中で、「適材適所のマッチングがうまくいっていない」との問題意識が深まった。その要因の一つに「転職市場の不透明さ」がある、と村上社長は感じた。
その象徴が給与額の提示だ。多くの転職希望者にとって最大の関心事である転職先企業での年収は、内定段階で初めて提示されるケースがほとんど。
「最後の最後でぱっと年収が提示される。そんな常識をひっくり返したかった」(村上社長)
たどり着いたアイデアが転職ドラフトだ。プロ野球のドラフト会議であれば、球団側が競い合って選手との交渉権を獲得する。転職ドラフトはと言えば、転職希望者それぞれに応じて年収額や職務内容を企業側があらかじめ提示し、折り合いが付けば面談へと進む。
昨年4月の第1回入札以降、冒頭の第6回入札までに、のべ4300人が登録した。企業側は6回目で過去最高の81社が参加。楽天、サイバーエージェント、DeNAなどIT業界大手が顔をそろえた。