●ファンにはたまらない

 貴乃花も稀勢の里も、新横綱として臨んだ場所でそろって優勝。また、2001年夏場所では、14日目の武双山戦で右ひざを負傷した貴乃花が、稀勢の里同様のテーピング姿で千秋楽に出場。本割は武蔵丸に敗れて2敗で並ばれたが、決定戦は上手投げで勝利した。表彰式で当時の小泉純一郎首相が「痛みに耐えてよく頑張った。感動した」と叫んだあの優勝だ。

 けがをおして決定戦で外国出身力士に勝った姿でも、2人は重なるのだ。

 性格もよく似ている。

 土俵にかける情熱は人一倍熱いが、生き方は器用ではない。明るく天才型の貴乃花の兄・若乃花と違って、けいこで鍛えた技のみを身上にする。マスコミ対応はちょっと苦手で、特に負けた後はコメントが少ない。寡黙で一つのことに打ち込む姿は、まるで修行僧のようだ。

 違う点と言えば、腰高でシコが足りないと指摘を受ける稀勢の里に対して、足が高く上がる貴乃花はシコが美しかったことだろうか。ファン層も、稀勢の里は好角家が多いが、貴乃花は相撲好きを超えたファンも持っていた。

 貴乃花の父・元大関貴ノ花の弟弟子で、今は稀勢の里と同じ一門の二所(にしょ)ノ関親方(元大関若嶋津)が言う。

「2人を比べると、貴乃花の名前はまだ大きい。稀勢の里は横綱昇進が遅い。今後は力を伸ばすよりも維持することになるだろう。だが、稀勢の里の頑張りが、他の力士の刺激になり、新しいファンが増えることは間違いない」

 曙を筆頭にしたハワイ勢全盛の時代に活躍した貴乃花と、白鵬らモンゴル勢に囲まれながら奮起する稀勢の里。出生地は関係ないが、強者たちに立ち向かう気迫が2人にはあふれる。ファンにはそれがたまらない。(朝日新聞スポーツ部・竹園隆浩)

AERA 2017年4月10日号