「全額を肩代わりする制度は、全国でもなかなかありません」

 プロジェクトを主導する商工労働部労働雇用課の廣瀬智範さんは満足げに言う。確かにかなり太っ腹な政策だが、きっかけは薬剤師の人手不足に悩む製薬企業からの要望だった。製薬業が盛んな富山県だが、製薬会社は病院や調剤薬局に人材をとられてしまっていたのだ。

 これまで2人の応募があったものの、結局該当企業に就職しなかったため、まだ給付者はいない。廣瀬さんは今年1~3月にかけて全国61の大学をまわり、この奨学金返還助成制度の広報活動を行った。今年度の応募者は10人。製薬産業の中核を担う人材が現れることを願い、今後もPRを続けていくという。

 ただ、こうした取り組みにも課題がある。前出の大内さんは「一定の意義がある」と認めた上で言う。

「住む場所や職業が限定される上に、奨学金を人質にとられ、企業を辞められないという事態にもなりかねません。本来、奨学金は本人の可能性や選択肢を増やすものだということを忘れずに、奨学金制度改革を進めるべきです」

(編集部・竹下郁子)

AERA 2017年4月3日号