大学付属校が人気だ。入試改革の混乱を避けるため、とも言われるが、実際は改革を先取りしたリベラルアーツ教育が支持されているという。その真価は、進学校が受験シフトに入る高2以降に発揮される。
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いわゆる早慶MARCHの主な付属校のうち、首都圏にある中学の過去3年の入試倍率をまとめたデータによると、年によって変動はあるが、ほとんどの学校は3倍を超え、右肩上がりになっている学校も少なくない。人気の背景について、四谷大塚情報本部の岩崎隆義・本部長はこう指摘する。
「大学がエスカレーターでついているからとか、新テストに不透明感があるから、といった短絡的な理由で選んでいるのは少数派。それよりも、大学入試改革の理念を先取りした教育に価値を見いだしているご家庭が、付属校を選んでいるのです」
●リベラルアーツの成果
系列の大学に付属の高校からどのくらいの割合で進学するか、いわば「エスカレーター度合い」をまとめた。一口に「付属」と言っても、学校によってかなり差があることがわかった。例えば慶應の付属校はいずれも100%に近いのに対し、早稲田の付属校の中には5割を切る早稲田高等学校のように、進学校の側面を併せ持つ学校もある。一方、MARCH系では内部進学率が早慶より若干低めの7~8割が多い。しかし前出の岩崎さんは、これはエスカレーター式のほころびではなく、リベラルアーツ教育の「成果」と見る。
「付属校ではペーパーテスト的な勉強だけじゃなく、様々な体験や探究型学習が盛んです。その中で『医師になりたい』『デザイナーになりたい』といった明確な目標が見つかる子も出てくる。付属校というと大学は決まったと思われがちですが、内部進学の資格を保持しつつ、他大受験もできる。選択肢は逆に広がるのです」(岩崎さん)
付属校の多くが従来取り組んできたリベラルアーツ教育は、他の私立の中高一貫校でも「21世紀型教育」として今、盛んに取り入れられている。ただ、進学校と付属校の最大の違いは高校2年以降のカリキュラムにある。進学校が受験モードにシフトする中、付属校はさらに探究を深めたり、大学への接続を意識した授業をしたりできるのだ。
「我が国の国家インテリジェンスの在り方」「武田泰淳の感性的滅亡体験論」「翼の失速現象の解明と自作風洞によるビジュアル化」「小型節足動物が材質の異なる壁を登る能力について」……。早稲田大学高等学院の論文・作品集をめくると、高校生とは思えない高度な論考に目を奪われる。それが可能なのは、高2からの十分な「助走」があるからだ。
●1万2千字の卒論
まず総合学習の時間を使って課題を設定し、仮説、論証、プレゼンというプロセスを体験する。さらに、通常の授業でも大学で自分は何を学びたいかをイメージしながら、選択科目を取っていく。大学準備講座として「ビジネス入門」「理工線形代数」などを、大学の学部生に交じって学ぶこともできる。また「法学特論」「経済学・政治学特論」などは大学教員による授業もある。
そうしたベースのもとに生徒は各自のテーマを決めて、1万2千字程度の卒論に取り組む。約50人の教員が1人当たり10人の生徒を受け持ち、ゼミ形式で指導。研究活動に費用が必要な研究テーマでは「研究計画書」を提出し、認められれば、同窓会からの研究奨励金のサポートも受けられる。