●水玉で死の恐怖と対峙

 展示された「わが永遠の魂」作品のサイズは、100号と120号の2種類。サイズ別に分けて美術館の大きな壁に年代順に隙間なく並べることを思いついた。とはいえ、連続させる作品の組み合わせは無限大だ。いったいどうやって決めたのか。

「ちょっと待ってください」

 そう言って南さんが持ってきたのは、作品を20分の1サイズで複製した手作りの作品カードが入ったプラスチックボックス。

「夜な夜な自宅のリビングで、これを並べてうなっていました。20分の1でも、132点並べられるほど長いテーブルはないので、床に置いて、来る日も来る日も眺めましたよね」

 ヤヨイストが敏感に感じていた、「草間愛」の正体が垣間見えた。

 再び、美術館前。静岡県から新幹線でやってきたのは、20代の男性介護士くんだ。

「自分の想像を超えた作品が、草間さんの魅力。自分と草間さんの想像のズレを、なぞって検証する楽しみもありますね」
 ヤヨイストでごった返す初日の会場でも、ひときわ目を引いていたオシャレご夫婦のご主人は、ファッションショーなどの演出家、佐藤未知時(みちとき)さん(59)だった。

「草間さんの創作風景を映像で見て以来、全身にお経を書いて怨霊と闘う『耳なし芳一』が重なるようになった。草間さんは水玉やネットを描くことで、死の恐怖と対峙していたのではないか、と。今回の展覧会で、そんな思いがますます強くなりましたよね」

●恋に落ちたのと同じ

 ファンそれぞれの思いを丸ごと巻き込んで、ますますクラクラ度が増す「わが永遠の魂」展。美術館前インタビューの最後は、水玉ファッションとサングラスに身を包んだ、筋金入りのヤヨイストに登場してもらおう。

 横浜市でドッグカフェを経営する田邉詠津子さん(39)だ。

 横浜港に浮かんだ草間のインスタレーション「ナルシス・シー」に出合って、草間の放ったカミナリに打たれたのが、ヤヨイストへの始まり。以来、「恋に落ちたのと同じ」状態になって、収入のほとんどを草間のグッズや展覧会に投入するという田邉さん。エンゲル係数ならぬ「草間係数」も高い。

 2012年から14年にかけては、巡回展を追いかけて、新潟から本まで全国10カ所の美術館をまわった。

「グッズも好きですが、やはり本物のペインティングや立体が、草間作品の真骨頂。発せられるエネルギー量がぜんぜん違います。絵の具のタッチの痕跡を見て、『草間さんはどんな顔で、この絵の具を置いたんだろう』と想像を膨らませるのも楽しいんです」  

 同じ作品でも、展示された美術館ごとに作品が違う表情を見せることを発見し、気がつけばすべての展覧会をコンプリートしていた。

「恋に落ちるのと同じで、好きになるのに理由なんてないんですよ」

 そう言っていた彼女が後日、「理由」が少し見えてきたとメールをくれた。

「私は草間さんの作品から、彼女の目を通した世界を見せてもらっています。そしてその世界が愛おしいのです」

 まさしく恋愛。そんな草間彌生のカミナリに打たれたければ、あなたも東京・六本木の国立新美術館へ。クラクラすること請け合いです。(ライター・福光恵)

AERA 2017年3月20日号

暮らしとモノ班 for promotion
【フジロック独占中継も話題】Amazonプライム会員向け動画配信サービス「Prime Video」はどれくらい配信作品が充実している?最新ランキングでチェックしてみよう