「子どもによってこうしたいという気持ちは違います。こっちへ動かしたいというのは子どもの中にあって、私はそれをサポートしますが、こうしなさいと強制はしません。『先生だったらこう指すかな』と言うようにしています」(高野さん)
もうひとつ、高野さんが将棋の指導で気をつけているのは、相手のことを常に考えるということだ。
「将棋は先の手を読む必要があります。そのため、対局相手が何を考えているのか、必ず考えるように、子どもたちにも指導しています」
と、高野さん。
●はしゃがなくなる
将棋の対局は、必ずどちらかが「負けました」と言って勝負がつく。将棋は運はほとんど左右せず、自分の指した手だけが勝敗を決める。勝敗はいわば自己責任だ。高野さんの教室では、2時間の間に、相手を変えて5、6局は指す。
「『負けました』は、大人になるとなかなか言いませんが、将棋では『負けました』と毎回言います。言うことで、相手のことを慮ることができるようになります。初めは『勝った、勝った』とはしゃいでいた子どもたちも、負けを経験していくと、相手のことを考えてはしゃがないようになりますよ」
勝ちにこだわるあまりに、最初は「負けました」と言えずに、泣き出す子どももいるという。
「負けました」と言うことが心理面も技術面も人を強くする、と話すのは、暁星小学校教諭で日本将棋連盟学校教育アドバイザーを務める安次嶺隆幸さんだ。
「負けの悔しさをこれほど学べる競技はほかにありません。また感想戦も重要です。負けたあとにきちんと自分の気持ちを振り返って感想戦ができる子どもは強くなりますね。負けることで心が強くなるんですね」
安次嶺さんは、34年間にわたり小学校教諭を務める中で、ここ10年ほどで、生徒たちにある異変があると気づいた。
「私は『ツイッター現象』と呼んでいるんですが、言ってはいけないことでも、思ったことをすぐにそのまま口に出してしまう子どもたちが増えています」