●白線なしの道路も対応
目指すのは、東北ならではの自動走行車だ。通常、自動走行の車は車載カメラが道路に引かれた白線を認識し、車線の内側を走る。だが、東北は、道幅が狭く、白線が引かれていない道路も多い。雪や濃霧といった、過酷な自然環境もある。
プロジェクトは昨年3月、津波で家々が流された仙台市若林区荒浜地区で、レベル4(完全自動走行)想定の実証実験に臨んだ。車は設定した経路を最高時速15キロで走行した。
自動走行車が普及すれば災害時に混乱や渋滞が起きずスムーズに避難が可能となるが、解決すべき課題は多い。人工知能(AI)など技術面とあわせ、関連法令の改正や事故に対応する保険の整備など問題が多い。プロジェクトでは、東北大青葉山キャンパス(仙台市)で運用実証を進め、経験値を積みつつ課題を解決していく。プロジェクトの鈴木高宏教授は言う。
「大震災を経験した東北だからこそ持てる視点で、開発を進めていきたい」
個人になるべく詳しい情報を提示して、災害や事故時に公共交通機関の混雑を回避する──。そんなことも実現しそうだ。
昨年1月、首都圏に大雪が降った。ちょうど月曜日朝の通勤ラッシュ時刻。鉄道など公共交通機関が混雑し、複数の駅では構内に人が入りきらずに、駅の外にあふれた。ところが、
「JRの駅はそれほど混雑せずに、混乱が起きませんでした」
ジェイアール東日本コンサルタンツ取締役の小林三昭さんはそう話す。小林さん自身、自宅の最寄りJR駅はそれほど混雑していないのに、私鉄駅は混雑しているのを不思議に思った。
思い当たったのが、アプリ。JR東日本の電車が、今どこを走っていて、遅延が何分あるのか、といった詳細な運行状況をリアルタイムで把握できる。たとえば、三鷹駅で今乗るはずの列車が、遅延などのために実はまだ八王子駅にいる、といったことがわかるのだ。当時こうした情報を利用者向けに出していたのはJR東日本だけだった。
「通常の運行情報のように『遅延』『間引き運転』と出すだけでは、多くの人は『自分が乗る列車は大丈夫だろう』と考えて行動します。ところがこのアプリでは、駅員が得るのと同じ情報がリアルタイムで利用者に配信されます。これくらい詳しい情報が出ると、『もうすこし自宅で待機しよう』などと、利用者が適切に行動を判断できるようになります」(小林さん)
JR東日本は13年以降、すべての列車車両の位置情報をリアルタイムで取得できる仕組みを導入。全運転士がGPS搭載のタブレットを持ち、GPSを車両に搭載するケースも。このようにリアルタイムで位置情報を取得し、利用者に提示することで、災害や事故の際の混雑を回避できるようになる。