モデルケースとして選んだのは、宮城県南部の太平洋沿岸にある亘理町(わたりちょう)。3.11では震度6弱を記録し、海岸から4キロ近くまで津波が押し寄せ、300人近くが亡くなった。
奥村教授は2015年から昨年にかけ、1台に2人乗車し3389人(1694台)が避難する場合の解析を試みた。各道路が1分間で何台の車を通せるか、避難場所の駐車可能台数などの情報を使い、組み合わせ計算によって被害が最小になる最適ルートを割り出した。
その結果、すべての車が最短ルートで避難場所を目指すと197人が被害に遭ったが、「津波時は直進」などと避難路を標識などで指定し、山側の安全な場所で渋滞させた時は30人と6分の1以下に減った。さらに、バッテリーをつけた信号機などで行き先を誘導すれば、被害者は最短ルートに比べて10分の1以下の16人にまで減った。
奥村教授の手法は、地域の道路状況などをコンピューターに入力する作業が必要となるものの、どこに道路を新設すれば渋滞による被害を最小限に抑えることができるかわかるという。
「これから避難計画を作っていく、南海トラフ巨大地震で津波の被害が想定される地域などで貢献していきたい」(奥村教授)
自動走行車で災害時の渋滞を解消して被害をなくす──。そんな未来のクルマ作りが、東北大学で始まっている。旗振り役は、同大の研究者グループ「次世代移動体システム研究プロジェクト」だ。
「東日本大震災の時、どこから来るかわからない津波から逃れようとしている車をテレビで見て、自動走行車であれば絶対に逃げられる、我々の技術で何とかしたいと思った」
同プロジェクト発起人の長谷川史彦教授は力を込める。10年発足の研究会から始まったプロジェクトは、未来の自動車や交通体系の研究を進めてきた。
技術の粋を集めて研究を続ける自動走行車には、同大が千葉工業大学などと開発し東京電力福島第一原発の事故現場に投入され活躍した、ロボット「Quince(クインス)」のDNAが流れる。クインスは、原発建屋内の真っ暗闇の中を進んでいった。
市販の1人乗り電気自動車をベースに、「LiDAR(ライダー)」と呼ばれるレーザー距離計とGPSによって3次元地図を作りながらセンシング(感知)する。
「砂ぼこりの中でも道路を走れる自動走行技術の開発を進めています」(同プロジェクトの大野和則准教授)