生後約1週間が過ぎ、医療的措置をせずに頑張って生き続ける娘を見ているうち、手術して長く生きてほしいという気持ちが芽生え、医師に「今からでも手術を」と頼んだ。生後14日目。手術中の心不全が原因で亡くなった。

 いったんは手術をしないと決めたことで一緒に過ごす時間が持てた。生きる望みを最後まで失わずに手術にも挑戦できた。娘は短くても濃密な人生を生き、今も家族の中で生き続けている。

 赤ちゃんの病気や死。それは、ただ悲しい出来事というばかりでなく、親として悩み苦しむ中で自己の奥底にある嫌な感情と向き合わなくてはならない、残酷な試練でもある。

 2年前に第1子を生後数時間で亡くした神奈川県に住む女性(32)も、自分の器の小ささを突きつけられたという。

 妊娠6カ月の妊婦健診で肺がほとんど形成されていないことが分かり、子ども専門の病院に転院。さらに詳しい検査を受けることになった。染色体検査の前に、医師に「ダウン症の可能性はありますか」と聞くと、「ダウン症だったら大丈夫ですよ」と言われた。

 確かに、生まれても生後1年以内に9割が亡くなる18トリソミーや13トリソミーなどの染色体の病気と比べて、ダウン症なら長く生きられる可能性は高い。社会で活躍している人もいる。それでも思わず口に出てしまった。

「中絶はできないんですか」

 妊娠が分かってすぐの頃、夫と出生前診断について話し合った。大学時代に視覚障害者のボランティアをしていたこともあり、「子どもにどんな障害があっても育てよう」と覚悟を決めたつもりだった。だが、いざ現実となると怖くなった。一瞬でも「中絶」を考えた自分に心底幻滅した。

 死産になるかもしれないし、生まれても長く生きることができないかもしれない。それならおなかの中にいる間から育児をしようと夫婦で決意し、水族館やクラシックコンサートなどにも出かけた。家族3人の存在を常に感じた幸せな日々が、今も心の支えだ。

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