入院2日目には陣痛促進剤も追加したが、微弱陣痛が続く。夜になって突然強い陣痛が来て、ついに生まれた。癒やしの映像もアロマもなく、産声も聞こえない、静かで悲しい出産だった。

 看護師に連れてこられた息子は、ソラマメのような形の金属トレーに敷かれた紙に載せられていた。そのトレーには「未滅菌」と書かれたシールも貼られている。絶句した。

 普通の赤ちゃんだったら絶対こんな扱われ方はしないだろう。冷たいよね、かわいそうに、と涙があふれた。

 廊下から響くほかの赤ちゃんの声がつらくて部屋から一歩も出られなかった。幸せオーラに満ちた病院の中で、ただ一人別世界にいる気がした。

 退院後、おなかを痛めて産んだのに、赤ちゃんがいない現実を受け止められない。もう一度会いたい、どうして私を置いていってしまったの──。一日中涙があふれてくる。

 毎日、お骨に話しかけていると、夫から「もうやめなよ」と言われた。夫婦げんかも増えた。いま振り返れば夫もつらかったのだと思えるが、当時はそう理解する心の余裕もなく、離婚。支えてくれたのは、両親や弟、そして同じ経験をした仲間との出会いだった。

 昨年再婚し、いま第2子をおなかに宿している。

 妊娠がわかると、多くの人は赤ちゃんが新たに加わる家族の未来をあれこれと思い描く。その未来に、誕生とは正反対の赤ちゃんの死が待っていようとは想像もしないだろう。

 この50年で死産の件数は激減したが、それでも2015年に2万2617件あった。出生数は100万5677件で、100の出産のうち2.2件、50人に1人以上が死産という割合だ。

 日本では死産は、戸籍法で妊娠12週(4カ月)以後の亡くなった赤ちゃんの出産のこととされているが、流産に比べて死産の実態を知る人は少ない。

●死産の25%が原因不明 誰にでも起きること

 なぜ死産が起きるのか。妊娠22週(6カ月)以降の死産の原因を見ると、赤ちゃん自身の病気は2割強。そのほかは常位胎盤早期剥離やへその緒のトラブル、感染症などで、25%は原因不明だ。聖路加国際病院女性総合診療部医長の山中美智子医師は言う。

「死産の大半が、予測がつかず、突発的に起きている。誰にでも起きる可能性があります」

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