首都圏のターミナル駅を基点とし、駅の各出口には目印の解説と、写真と方向をつけた。「わかりやすい」と評判を呼び、累計発行部数は20万部を超えた。歩く方向を上にする手法は、以降一般的になり、現在も同社刊「ことりっぷ」などに受け継がれている。最近は、本と併用するアプリも提供している。
●ネット地図で業界縮小
前出の有川教授は、ウェブマップやモバイルナビの普及に伴い、地図の文化価値とその業界が縮小したと指摘する。
「地図はツールであり、正確なものがひとつあればいいという考え方が主流になってしまった。娯楽・芸術コンテンツとしての側面が弱まっています」
有川教授が優れた地図表現と考えるのが、大正~昭和初期に活躍した鳥瞰図(ちょうかんず)絵師、吉田初三郎が描いた作品だ。
「その場所に行きたくなるような、イメージを喚起させる地図。情報が目的に合わせてデフォルメされている。今後こうした物語性を持つ地図が復活するのではないか」(有川教授)
そのとき、地図があっても迷うという長年の悩みは霧消するか。変わりつつある地図の世界で、地図弱者たちの冒険は終わらない。
(編集部・熊澤志保、高橋有紀)
※AERA 2017年2月20日号