地図が読めないの私だ──。そんな悩みをわかってくれない孤独に沈む。迷いに男女の性別は関係ないらしい。煩悩を振り払う処方箋を探った。
地図を読むのが苦手だ。
移動距離「徒歩5分」を超えれば、道に迷うリスクは格段に上がる。30分余裕を持って出発し、プリントアウトした地図は縮尺を変えて3種類。地図アプリとGPSをオンにしてもダメ。気まぐれにワープする現在位置に翻弄(ほんろう)されて諦めた。行きつ戻りつ、なかなか見えないランドマーク。時計を見れば約束間際、先方に電話してわび、道案内を請うこともある。目的地に到着するまで、焦りと不安でいっぱいだ。
世の中に、地図を読める人と読めない人がいるなら、これが地図を読めない人──いわゆる「地図弱者」の日常だ。
ルーズなわけじゃない。自分の居場所と手元の地図が、どうしても重ならない。多くの時間とお金、もしかすると信頼や評価まで失ってきた。2000年に発売された『話を聞かない男、地図が読めない女』(主婦の友社)という本は累計284万5千部の大ベストセラーとなった。
「どうしてわからないの?」
地図強者たちの視線は冷たい。そこには深い断絶がある。
●地図弱者の抱える闇
はなまる総合研究所の杉下正行さんは、テニスイベントを主催するたび、こうした「地図弱者」の対応に苦慮してきた。
「迷った」コールを何度も受け、道案内に貴重な時間を奪われてきたからだ。
当初は「案内に地図も住所も載せているのに、迷うほうが悪い」と考えていた。だが、彼らの抱える闇に気づいた。
「ランドマークも曲がり角も間違える人がいる。現在地を確認せず、思い込みで進み、駅を出た瞬間に迷う人もいる。迷わず来られるのは最寄り駅まで。東西南北で説明しても伝わりません」
杉下さんは地図による案内を諦めた。駅からの視覚情報に従い、写真と文章で詳細な案内を用意すると、迷う人は激減した。