そう、地図弱者が求めているのは、地図という記号ではなく、視覚情報や言葉による解説だ。
方位磁針を持ち歩いていないから、東西南北はわからない。天候や立地によって太陽は見えないから、道案内に適した指標のはずがない。駅の何口を出て、左右どちらにどれだけ進むのか、具体的に教えてほしい。
そもそも、なぜ地図を持っていても迷うのか。地図が読めない人は地図上の情報と現実の世界がリンクできていない、と指摘するのは、方向音痴に悩む人向けにセミナーを開催している北村壮一郎さん。
北村さんの講座では、実際に街を歩いて自分なりの目印を見つけ、それをもとに地図に描き起こす練習をする。2次元(地図)と3次元(現実)を行き来することに慣れれば、地図の情報から現実のイメージを思い浮かべられるようになるという。
●くるくる回す理由
方向音痴といえば、道端で地図をくるくる回している姿を思い浮かべる人も多いだろう。静岡大学の村越真教授(心理学)によれば、これは「整置(せいち)」と呼ばれる地図を読むための重要なスキルのひとつだ。
地図と実際の方向が合っていない場合、頭の中で回転させる手間が必要になり、これが間違いのもとになる。人間は、頭の中で物の見え方を回転させる操作が苦手だ。地図を読めない人は、東西南北ではなく、自分を軸に「右・左」でとらえがち。何度か曲がったあとに全体を把握しようとして、頭の中で右や左のつながりを回転させて整理する必要が生じる。それがさらなるハンディになっているのだろう、と村越教授は話す。
目的地までたどり着くには、地図を使うスキルのほかに、周囲の位置関係の把握、目印の記憶、都市空間や建物構造に関する一般的知識といった能力も関係してくる。遠くに見えるものを意識し全体的な位置把握をしながら、曲がり角では集中してランドマークの情報を覚える。人が多いほうが駅に近いなどの知識も活用すれば、初めての場所でもある程度推測できる。