これまでの社会規範やタブーを打ち破ることで、不満や怒りを晴らす傾向は世界的に強まっています。イギリスではEU離脱の国民投票結果、米国ではトランプ新大統領の誕生という形で具現化しました。
日本の場合、社会の不満を吸収する現象として、かつては「公務員たたき」がありました。エスニックマイノリティーに対するヘイトスピーチや、一部マスコミへのバッシングもありました。今後こうした批判的エネルギーの対象に、「憲法」が浮上する可能性も否定できません。改憲によって鬱憤(うっぷん)を晴らすという選択を、日本国民が今後も取らないとは断言できません。
改憲のカギを握るのはやはり世論の動向です。過去に一度も憲法改正が発議されなかったのは、国民がどう判断するのか、政権側が読み切れなかったからです。
憲法は空気みたいなもの。空気や水はなくなったときに初めてその大切さに気づきます。戦後の私たちの生活の基礎は、実は憲法によって支えられている部分がかなりあり、改憲によって権利が制約されたり、一気に軍事化が進んだりする非常にもろいものだということを意識しておく必要があります。私たちの想像力が試されています。
(構成/編集部・渡辺豪)
※AERA 2017年1月16日号