国立公文書館に所蔵されている日本国憲法の公布原本。第9条を含む第2章「戦争の放棄」の前、第1章は生前退位問題で注目を集める「天皇」だ (c)朝日新聞社
国立公文書館に所蔵されている日本国憲法の公布原本。第9条を含む第2章「戦争の放棄」の前、第1章は生前退位問題で注目を集める「天皇」だ (c)朝日新聞社
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杉田敦(すぎた・あつし)/法政大学教授/1959年生まれ。東京大学法学部卒。専攻は政治理論。著書に『権力論』、『憲法と民主主義の論じ方』(共著)など (c)朝日新聞社
杉田敦(すぎた・あつし)/法政大学教授/1959年生まれ。東京大学法学部卒。専攻は政治理論。著書に『権力論』、『憲法と民主主義の論じ方』(共著)など (c)朝日新聞社

 2017年が幕を開けた。16年は、トランプ氏の大統領選勝利に代表されるように、世界中で既成概念や秩序が「反転」した年だった。今年はどうなるのか。憲法改正について、法政大学教授の杉田敦さんに話を聞いた。

*  *  *

 憲法改正はどの条項から着手されるのか。

 指摘しておきたいのは、安倍晋三首相及びその周辺の目標は、9条改正で一貫しているということです。その背景には、いわゆる「解釈改憲」では9条が持つ規範性を打ち破るには至っていない、という現実があります。

 2016年3月に施行された安全保障関連法に「集団的自衛権の行使容認」が盛り込まれたことにより、9条は空文化した、と唱える人がいます。そうであれば、9条改正の動機づけはほぼ失われるはずです。が、実際にはそうはなっていない。これは、憲法問題の中心は依然として9条だということです。

 9条改正の潮流は突発的に盛り上がる可能性をはらんでいます。例えば、朝鮮半島や東シナ海で軍事的に切迫した事態に直面すると、「9条があるから外国になめられるんだ」「9条をなくせば外国は対応を変える」といった意見が前面に出て、国内世論が一気になびくことも考えられます。

 国連平和維持活動(PKO)に参加する自衛隊員に「駆けつけ警護」が付与されたことも、9条改正の動機づけになる可能性があります。従来よりもかなり困難な任務を背負ったことで、隊員が戦闘に巻き込まれた場合、「こんな危険な派遣はやめたほうがいい」という議論が高まるのか、それとも「自衛隊は9条によって行動を制約されているから危険にさらされている」という声が大きくなるのか。世論の反応は読み切れません。

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