しかし札幌では、

「成績はトップでも、家の事情が上京を許さず、家の手伝いをする必要があるので自宅から通える道内の大学に進学するという女子もいました」

 大学進学の地域格差を調査する国立教育政策研究所高等教育研究部総括研究官の朴澤泰男さんはこう話す。

「女子のほうが、自宅から通学しやすい範囲で進学する傾向がありますが、背景には親が娘をひとりで遠くに行かせたくない、出すとしてもせめて、セキュリティーがいいところに住まわせたい、という希望があるようです」

 東大生の生活費の支出合計は月額9万3210円で、その最も多くを占めるのが住居費6万1080円だ。セキュリティーがよくて大学から近い物件に住もうとすると、住居費はさらに上がるだろう。「女子比率を上げる」という目標を達成するには、現在4割以下にとどまる、地方出身者など自宅外から通学する女子学生を増やす必要がある。その意味で、住宅支援は効果的なインセンティブになる可能性が高い。

 朴澤さんは、

「過去20年間で東京など都市部で大学の収容力が増えたことで、進学率が上昇してきました。それによって、地方間の進学率の差が広がった面もあります」

 と説明する。

●目に見えない壁もある

 浪人生を含む大学進学者数をその年の高校卒業者数で割った大学進学率は、男女ともに年々伸びて、15年度の全国平均は男子51%、女子46.6%。大学進学者数の男女比率は、1.1:1とほぼ同じだ。男女間の進学格差も、全体では徐々に縮小している。

 だが、1990年代には縮小していた都道府県間の進学格差が、この10年は逆に拡大している。

 都道府県別大学進学率は、05年度ではトップの東京都が50.6%、最下位の鹿児島県が25.8%とその差は24.8ポイントだったが、15年度にはトップの東京都が63.9%、最下位の鹿児島県が30.1%とその差は33.8ポイントに拡大している。

 となると、地方出身の女子学生が東京で一人暮らしをするための支援は、より重要になるだろう。

 経済的支援では乗り越えられない、目に見えない壁も厳然としてある。

 東海地方出身で東大を卒業した女性会社員(36)は、親戚からかけられた言葉が忘れられない。

「女の子が『東大出身』なんて言うと、お嫁に行けなくなるわよ」

 男女の大学進学率の差が縮まっても、男性のほうが女性よりも高学歴であってほしい、という男性優位の考えは、日本のあちこちに残っているのか。(編集部・長倉克枝)

AERA 2016年12月19日号