「長い海保の歴史の中で、常に複数の船が一緒に何かをするという業務は極めて特殊です。我々は戦車ではなくパトカーなので、現場対応しかできない。外交で問題が根本的に解決されるまでの長期戦だが、踏ん張るしかない」

 海保が最も懸念しているのが中国公船の勢力増強だ。尖閣諸島がある東シナ海に加え、南沙・西沙諸島のある南シナ海でも海洋進出を活発化させる中国は驚異的なスピードで船を造り、大型化と武装化を進めている。

 海保の独自分析などによると、1千トン級以上の大型船の保有隻数は12年段階で、日本(約50隻)が中国(約40隻)を上回っていた。それが14年、中国は80隻となり、海保の約50隻を抜く。15年には海保約60隻に対し、2倍の120隻となった。日本政府は19年までに海保の大型巡視船を65隻に増やす予算建てをしているが、同年までに中国は135隻に増えるとみられ、その差は広がる一方だ。

●解決策は外交しかない

 大きさも3千トン級が多く確認されており、海保最大の6500トンを大きく上回る1万トン級の船も建造された。大型船の中には、装甲の厚い海軍艦艇を改造したものもあり、37ミリ機関砲など重装備を持った船も確認されている。

「台風で真っ先に離脱するのは小型船。大型はシケに強く、最後まで海域で展開できるが、1万トン級が必要かどうか、よく分からない」と海保関係者。「日本の海保、中国の海警ともに、撃ち合いになれば、戦争にエスカレートしてしまうのは互いにわかっている。海上法執行をする警察組織だから、撃ってくる理由はないはずだが、装備の大型化も何が目的かわからない」(前出の幹部)

 これまで中国公船が撃ってきたり、体当たりしてきたりしたことはない。相手が警察組織であるという信頼感はあるが、大型化と同時並行で進む武装強化の動きに警戒感をあらわにする。

 中国海警局は現在、小中型の船艇などを含めると全体で約2450隻を所有する。これは海保の455隻の5倍強。米国の沿岸警備隊の2020隻をも超える隻数だ。

 常に相手を上回る隻数での対応が基本の尖閣警備にも大きな影響を及ぼす可能性がある。実際に今年8月、15隻の中国公船が尖閣海域で領海侵入を繰り返した時は、尖閣専従12隻では足りず、全国から応援の巡視船が出動した。この時は近くの海域でギリシャ船籍の貨物船と中国漁船の衝突事故も起こり、急遽、救助活動にあたるなど、何隻あっても足りない状況だった。

 尖閣上陸という最悪のシナリオを防ぐためにも、海保の人員も船も増やすという、警備力強化は急務。外交による抜本的な解決をはかるまでの時間稼ぎかもしれない。エスカレートする神経戦に、残された時間はあまりない。(編集部・山本大輔)

AERA 2016年11月28日号

暮らしとモノ班 for promotion
【本日17(木)23:59まで】Amazonプライムデー終了間近!おすすめ商品やセールで得する攻略法をご紹介