言葉遣いは韓国在住の外国人に手ほどきを受けたが、思わぬ収穫があった。
「西洋人のちょっとくどく見える表情やジェスチャーが興味深くて、使わせてもらいました。例えば、劇中で女性に色目を使う時の目つきとか(笑)」
ソウル大生や検事に扮(ふん)した詐欺師にチラリ、チラリと見つめられた女性たちが落ち着きを失うのは無理もない。
「こういう役を演じると、撮影現場が楽しい雰囲気になりますね。真面目でお堅い役と違って、この詐欺師の場合は何をしても大丈夫だと冒険できました。演じていてとても楽しかったです」
●広い世界で活躍したい
映画は、出所した検事に「いい商売のネタがある」と持ちかけた詐欺師が「(新約聖書の)ヨハネ16章33節!」と一蹴されて終わる。意訳すれば、「聖書に『生きていれば困難な出来事がある。でも、勇敢でありなさい』と書いてあるだろ。真面目に生きろ!」といったところか。
ドンウォン自身はこれまでの俳優人生を「デビュー当初が一番大変でした」と振り返る。
「次の作品では楽になるのではないか、といつも思っていました。ところが、いつまでたっても、準備も大変、演じるのも大変。いま思えば、『次こそよくなるだろう』という考え自体が間違いでした。同じ作品なら楽になるかもしれませんが、毎回まったく違う作品なのですから」
その意味で、「自分を捨てる」という詐欺師の極意は演じることに通じる。
「うまく演じなければならないのは、当然のこと。俳優としてもっと広いマーケットを視野に入れ、世界で活躍したいです」
(フリーランス記者・坂口さゆり)
※AERA 2016年11月14日号
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