●10年後にらんだ施策を

 そんな政府の動きに対し、日本医師会や全国医学部長病院長会議は、一貫して医学部新設に反対を唱え続けてきた。大きな理由の一つが、医学生の学力低下、そして医療の質低下への懸念だ。

 日本医師会の推計では、25歳人口に占める医師国家試験合格者は、75年で512人に1人だったが、2015年には162人に1人になっている。

 全国医学部長病院長会議相談役で日本私立医科大学協会会長を務める寺野彰氏は、「最大の反対理由は、医学部を新設すると医師数の調整が難しくなること。既設大学の定員増でしのげば、減らすことは容易だが、医学部を潰すことは難しい」と訴える。

 別の国家資格をみても、人数の調整が難しいことがわかる。歯科医余りが起き、歯学部は定員割れにあえいでいる。続々とつくられた法科大学院は、司法試験の合格率が低く、合格しても弁護士業務の広がりは頭打ちという厳しい環境から、募集停止に追い込まれた大学もある。

 加えて、医学部を設立するには、他の学部にない複雑な事情がある。設備などに多大な費用がかかり、そこには税金投入という国民負担も生じる。さらに、医学部を出て一人前の医師になるには、入学から10年はかかるため、速効性はない。

 新設2校には、そんな逆風を乗り越え、「被災地支援」「国際的人材の育成」という存在意義を発揮してもらうことを期待したい。(ジャーナリスト・塚崎朝子)

AERA 2016年10月3日号