●京王悩ます「高架反対」
一方の京王線は、主に列車の長編成化を進めることで輸送力増強を図ってきた。現在は、朝のラッシュ時は急行系列車と普通列車のほぼすべてが10両編成だ。時間短縮も進んでおり、今では新宿~京王多摩センター間を最速で27分(特急)で結ぶ。小田急線沿線にも住んでいた京王線ユーザーの女性(53)は言う。
「小田急線に比べて、京王線のラッシュは2割ほどマシ。イメージは小田急線の方が都会的だけど、京王線は新宿までのスピードが速い。これは魅力ですね」
前出の土屋さんも話す。
「多摩ニュータウン方面から新宿に出るには、スピード、料金ともに小田急線より京王線に分がある。京王電鉄は地元密着型なので、遠方での派手な観光開発などはせず、地道に沿線の利便性を上げることを目指している印象です」
ネックなのは「高架化」の遅れだ。12年に始まった笹塚~仙川間の連続立体交差事業は14年に住民反対訴訟を起こされたこともあり、スムーズに進んでいるとは言い難い。この区間には25カ所の踏切があり、並行して走る甲州街道に流出入する車の交通渋滞が深刻化している。高架化できないと複々線化もできないので、ラッシュ時のノロノロ運転にもつながっている。
「ラッシュ時の調布~笹塚間のノロノロ運転解消は喫緊の課題です。ただ、高架化は都や区との共同事業なので、鉄道会社単独では進められない事情もある。また、小田急線が複々線化を始めたときは乗客数も右肩上がりでしたが、今は多摩ニュータウンの人口減少など状況が異なります。複々線化に莫大(ばくだい)な費用をかけるべきかという経営判断もあると思います」(土屋さん)
高架化の完了は22年度の予定。京王電鉄広報部の担当者は、
「引き続き、事業主体である都と用地取得や設計事業を進めてまいります」
混雑緩和に向けては、より一層の「バトル」を期待したい。(編集部・作田裕史)
※AERA 2016年9月26日号