●天皇制という発明 二つの統治原理
姜:イギリスには王制が、日本には天皇制があるから、ある種の立憲君主制度です。ほぼ立憲君主制に近いシステムを取っている議院内閣制の国は、レファレンダム(国民投票)はやっちゃいけないと思います。
内田:イギリスはもともとは簡単にことが決まらないように制度設計してありましたから。
姜:一方で、大変な歴史を経てきたドイツは、レファレンダムに懲りているわけです。韓国とドイツは共和制ですが、ドイツのほうが、うまくハンドリングできています。これはどうしてかというと、名目的には大統領を元首に置くことで実質は議院内閣制が動いているからです。だから今、世界を見渡してみて一番安定しているのはドイツですよ。僕は、ああいうシステムのほうがいいんじゃないかと思っているんです。だから日本は、立憲君主に近いような天皇制でやっていく限りは、国民投票はなじまない。憲法に規定するならば、もう憲法は変えない、だから国民投票もやらないと変えるべきじゃないかな(笑)。
内田:憲法を一時停止する非常事態条項を持つ憲法は外国にもありますけれど、その場合も立憲主義の縛りがなくなった政体が暴走しないように、二重三重に歯止めをかけないといけないですね。そして、おっしゃる通り、日本の場合特殊なのは、天皇制があることなんです。天皇というのは、政体がどう変わっても、同じところにいる。それが日本の安定というか、重しになっている。僕は若いころは天皇制は廃絶すべきだと思っていたんですが、30代くらいから考えを変えました。天皇制ってなかなかすごい政治的発明だなと思うようになった。
日本国憲法は世界に冠たる民主的憲法でありながら、そこに天皇制という明らかに民主制になじまないものが入っている。でも、このなじまないものが入っているというところが、日本の手柄なんじゃないかと思うんです。君主制と民主制はあきらかに食い合わせが悪い。でも、その食い合わせの悪いものをなじませるために日本人は四苦八苦している。日本の政治は単一原理で律されていない。二つの原理が葛藤している。僕は単一の統治原理で貫通しているより、二つの統治原理が葛藤しているほうが風通しがいいんじゃないかと思います。