参院選での改憲勢力躍進、イギリスのEU離脱、天皇の生前退位問題……。近視眼的な視点では解決できないさまざまな政治課題について、歴史を参照しながら語りつくす。
姜尚中(以下、姜):参議院で自民党が27年ぶりに単独過半数を回復し、改憲に前向きな4党・会派だけで3分の2を占めました。第3次安倍再改造内閣の顔ぶれを見ても改憲に積極的なことがわかります。
内田樹(以下、内田):さまざまな政治課題があるなか、天皇陛下の生前退位のご意向表明もありました。課題が山積みなのに、改憲などという何の必要性もない課題を最優先し、政治資源を投入していく。海外の論調は、「日本にそんなことしている暇あるのか」ですよ。
姜:僕が大学に入って教わったのは、政治とは価値の権威的配分だということです。社会の希少資源、つまり財貨やサービスを配分するのが政治であり、しかもそれは権威的配分だから正当性がないといけない。正当性があるためには、優先順位をつけないといけないのに、今の日本は優先順位が間違っていて、必要なところに資源を配分しないで、必要でないところに集中的に資源やエネルギーを投下しています。これは日本だけではないですね。その端的な例は、最近ではEU離脱を選んだイギリスです。日本でも改憲を国民投票にかけた場合、これまで日本が経験したことがないような国論分裂が起き、それが尾を引くんじゃないかと思うのです。天皇の生前退位のご意向によって、改憲への動きは少し先送りになると思いますが、護憲派と改憲派が真っ二つに分かれて引き裂かれたら大変なことになります。
内田:そうですね。今は国際情勢自体が流動的になっている。中国や中東の問題も従来の政治的なスキームでは処理できない。前代未聞の政治的状況にどう対処して最適解を見いだすかに最優先で政治資源を投入すべき時に、わざわざ国内に抜きがたい対立を残すだけの改憲論議にかまけるなんて、政治家としてあまりに無能すぎます。