●国民投票の危険性 全権委任狙う与党
姜 ある時期までは、大統領制というか人民投票的なものは、正しいんじゃないかと思っていて、議院内閣制が手詰まりであれば、直接制もいいんじゃないかと、思っていたんですよ。ところが、国民投票といった、イエスかノーを問う一回限りの民意の表明で国の命運や憲法のような根本規範を変えたりすることは、いかに危ういかがわかるようになりました。
内田:賛否両派の間に修復のむずかしい対立が残るだけでなく、他の緊急な政治課題が横に捨ておかれてしまうでしょう。
姜:改正をする草案もほとんどの国民が読まないままです。
内田:でも、政権は短期決戦を狙っているでしょうから、逐条的な改憲なんかやっている暇はない。「お任せ」か「嫌」かのどちらかになると思います。
姜:つまり全権委任ですね。
内田:フランス第三共和政の国民議会はドイツに降伏したとき、新憲法の制定権をペタン元帥に与えるという法案を圧倒的多数で採択した。あれが全権委任です。逐条的に前文から全部チェックして与党内ですり合わせをし、さらに野党と議論してから国民投票にかけるなんて、そんな面倒くさいことは自民党はやる気ないと思いますよ。憲法制定権そのものの認否を問うかたちになるんじゃないですか。
姜:それは喝采型の民主主義になっていますよね。ヒトラーの授権の時も、人民投票というのは喝采でいいと。そこでワーッと一同喝采をあげれば、「これで全部委任されました」。そんなパターンの伝達をメディアもやっているような気がします。
内田:今の日本のメディアは本当にダメですね。戦前の日本のように、うかつに政権批判すれば記者は逮捕拘禁され拷問され、媒体は発行停止というようなリスクがあるのなら、恐怖心で政権批判を控える気持ちもわかります。僕だって怖い。でも、今の日本は違うでしょう。そんな平和な時代に自己検閲するのって、どういうことですか? 金や出世とかいう俗事と報道の自由を引き換えにしている。ここまで醜悪なメディアは世界ジャーナリズム史上初めてです。安倍政権には「言論の弾圧」というほど明確な政治的意図があるわけじゃないと思います。ただ、強く同質化が求められている。全員が同じ意見を持って、上意下達で上の指示がただちに末端までゆきわたる、多様性のない社会が理想的だと信じている人たちが安倍さんを支持している。