夏になると食べたくなるアジア料理。パンチのきいたエスニック料理店で「行きつけの外国」を探してみよう。アエラ8月22日号(8月16日発売)で特集した「東京で食べるアジア飯の極」から、今回は特別にウイグル料理店を紹介する。
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グラスごとキンキンに冷えたビールで乾杯し、スパイスたっぷりのラムの串焼きをほおばるサラリーマン。西新宿の甲州街道から路地に入ったところにある「シルクロード・タリム ウイグルレストラン」は、平日午後8時を過ぎると満席になった。
スタッフは全員、ウイグル人。今は中国の西にある新疆ウイグル自治区を中心に生活するが、古くから中央アジアで暮らすイスラム教の遊牧民族だ。
オーナーのスラジディン・ケリムさんは、ウイグル以外の世界を知りたい、と日本にやってきた。
「でも、日本に来たらウイグルはモンゴルですかと何度も言われた。悔しかったよ」
ウイグルと日本の情報交換の場をつくろうと、2010年にこの店をオープンした。
店内にある装飾品も食器もすべて、ウイグルから送ったもの。ウイグルの本格派レストランで10年以上働いたシェフを呼び、調味料もウイグルから取り寄せるほどこだわる情熱ぶりだ。
シルクロードにあるウイグルの食文化は、多くの料理のルーツになったといわれる。例えば麺の元祖という「ラグメン」は、東に伝わって「ラーメン」に、西に伝わって「スパゲティ」になったという説も。この店の看板商品で、わざわざ遠くから食べにくるリピーターもいる。
「ダンッ、ダンッ、ダンッ」という音がキッチンから聞こえれば「ラグメン」の注文が入った証拠。手打ちでつくる麺はもちもちで、その上にラム肉やトマトなどの炒め煮をのせる。麺に肉のエキスが絡まり、なるほどミートソーススパゲティのような味わいだ。コシのある麺は讃岐うどんのようで、ぺろりと完食してしまった。
ウイグルでは一日1食、必ず食べる家庭料理だという。
「ウイグルからお客さんが来て、この味を出せるのはウイグルでもなかなかいないよ、と言ってもらえた。正しいウイグルの文化を伝えられていると思うと安心します」
とケリムさんは話す。
そのほかにも「ゴシナン」というミートパイやカボチャのパイも日本人に人気で、もちもちの生地はクセになる。粉ものは必食だ。食後は種類が豊富な紅茶を飲むと、口の中がすっきりした。
店を始めてから、東京にはラム肉の文化がないことに驚いたそうだ。遊牧民が食べてきたヘルシーで臭みのないラム肉の料理を食べてほしい、と今月にはラム肉レストラン「ジンギスカン・タリム」を四谷に出す。(ライター・塩見圭)
※AERA 2016年8月22日号