「配布物がない日はほとんどありません。一日に10種類を超えることも珍しくないのです」
ほかにも、1円まで小銭を数える集金や、特別な配慮が必要な子どもの保護者への対応、各種報告書の作成など、放課後の校務はきりがない。
Aさんがひと息つけるのは夜8時ごろ。やっと授業準備などの本業にかかれると思った矢先、こんな時間にも電話をかけてくる保護者がいる。
「◯◯先生いらっしゃいますか」
Aさんは毎朝4時半に起床し、子どものお弁当と晩ご飯のおかずをつくり、掃除や洗濯などの家事を済ませてから、7時前には家を出る。だが、そうして用意した夜の食卓を家族と囲める日はほとんどない。
●「世界一」の長時間勤務
「世界一忙しい」といわれる日本の教師。その実態を明らかにしたのは2014年、経済協力開発機構(OECD)が発表した「国際教員指導環境調査」だった。参加国・地域の中学教師の平均勤務時間が1週間で38.3時間だったのに対し、日本は約1.4倍の53.9時間と最長。事務や部活動など授業外の校務に多くの時間を取られていることも明らかになった。
今年2月、四つの教育系国立大学が連携するHATOプロジェクトが発表した「教員の仕事と意識に関する調査」によると、公立小中教師の学校での勤務時間は平均11時間超。約9割が「授業の準備をする時間が足りない」と回答し、本業に時間をかけられない実態が浮き彫りになった。プロジェクト代表を務める愛知教育大学の子安潤教授(教育方法学)は、日本の教師の忙しさの要因を次のように説明する。
「欧米の教師の仕事は教科を教えるだけなのに対し、日本は生活指導や部活なども担うオールラウンド型。一クラスの生徒数も、13年調査でOECD諸国平均が約24人なのに対し、日本は31人と約3割多い。さらに10年ほど前から学校現場に導入された『PDCAサイクル』が、書類作成、調査、会議を増やし、教師の多忙に拍車をかけた」