「脱ゆとり」が加速する学校で、教師たちが追い詰められている。苦情対応、プリント、集金、書類作成……。多すぎる校務が「本業」を圧迫しているのだ。教師339人の本音と解決策を探った。
夕方5時半過ぎ、首都圏の公立小学校の電話が鳴った。
「公園に鳩が死んでます」
職員室にいた40代の女性教師Aさんは、「鳩が学校とどういう関係があるの?」と思った。が、その考えをすぐ打ち消した。電話の主は、市役所の電話交換が終了したため学校にかけてきたのだろう。「学校なら誰かしら電話に出る。しかも絶対ノーとは言わない」。そう見越して電話してきたに違いないのだ。
話をこじらせ、処理に膨大な時間を費やすくらいなら、公園に行ってしまったほうが早い。この日は「鳩」だったが、「吸い殻が落ちている」「遊具が壊れている」ときもある。
「うちの子がまた何か……」
保護者が震えた声でかけてくる電話もまた、ここ数年増えた。母親たちがLINEでつながり、学校の情報はあっという間に広まる。特定の親が疎外されるケースも少なくない。不安にさいなまれた母親を落ち着かせるため急遽、面談することもある。
「新1年生を受け入れるときは、地元の幼稚園に事前に子ども同士の人間関係についてヒアリングし、クラス編成などに生かします。最近はそこに、親の情報も加わるようになりました」(Aさん)
●ノーと言えない学校
SNSの普及によって、こんな電話も入るようになった。
「今日のプリント、うちの子のクラスだけ配られていないようですけど」
学校が発行するプリントには日付を入れる。配り忘れがあると即電話が入る。ときには教師たちが手分けして、郵便局員さながら各家庭に配って回る。
ノーと言えない学校には、学校のプリント以外にも大量の配布物が押し寄せる。
「営利目的のものでなければ、基本的に断れないんです」
Aさんはそう説明する。学校に一括して送れば安く効率よく生徒たちの手元に届くため、公民館、図書館、教育委員会関係、NPOなどから日々送られてくる。これらを教師たちはクラスの人数に応じて「35枚、37枚……」と仕分ける。家庭数での配布を指定されれば、きょうだいの重複を確かめる。