ダイバーシティーが叫ばれ、多様な生き方が認められている──が、身近なところにこそ埋まらない溝がある。「子あり」「子なし」、あなたはどう思いますか?
食後に歯磨きをするように、寝る前に風呂に入るように、子どもを見れば「金がない」と口にする父親だった。妻と2人暮らしの男性(47)は今でも強烈に覚えている場面がある。
当時、父親は最も安いランクの大衆車に乗っていた。人気の高級スポーツカーを見た時、「子どもさえいなければ」とポロッとこぼした。
子どもを持つと金がかかる。だから親はやりたいこと、欲しいものを犠牲にしなくてはならない。素直にそう信じていたが、大学進学後、初めて疑問が芽生えた。
「金がないから、高校を出たら働け」と言う父親のもと塾にも予備校にも頼らずに自力で大学進学を果たした男性の「これまで」と、大学の同級生らのそれとは全く違っていた。
よくよく考えれば父親は公務員。本当に金がなかったのか。「お前らにかける金はない」と言わんばかりだった父親を次第に恨むようになった。一方で「子どもには金がかかる」との刷り込みは消えない。「それなら子どもをつくらない」と決めた。
●親の価値観を再生産
30歳で結婚を意識した女性に「子どもは絶対に欲しくない」と話すと、「全然いらないよね」。結婚後、夫婦間で子どもの話題が上ったことは一度もない。“同志”のような妻との生活で、「子どもうんぬん」の意識から完全に解放された。
「子どもについては、親の子育て観が再生産される」
と男性。同じ価値観なのか、男性の弟、妹も子どもがいない。
「他人が子どもを持つことに否定も賛成もしません。ただ、ツンツルテンのズボンをはき、資格取得など将来のための自己投資をできず、子どものために必死で貯金している『お父さん』を見ると、『可哀想、俺にはできない』と心から思います」
本誌はアエラネット会員に、「子なし」に関するアンケートを実施。賛否両論あったが、おおむね「いろいろな人がいて、いろいろな事情があって、いろいろな選択や決断をすることに他人が口を挟むべきでない」(54歳女性・既婚・子どもあり)に代表される意見だ。しかし、「子あり」「子なし」であっても、抱える事情・思惑は、当然ながら千差万別だ。