男性は同僚の携帯に「今すぐ日経を見ろ」とメールした。月曜日に出社すると部内は騒然としていたが、会社からは「記事の内容は間違いではない」という程度の説明しかなかった。辞令が出たのは半年以上たってから。それまでずっと「おれたちこれからどうなるんだ」とみんなが疑心暗鬼状態だった。結局、3分の2程度が新会社に出向し、3分の1は本社に残った。男性自身は新会社に行くことが決まった。
「メンバーを見れば、新会社に切り出されたほうが精鋭集団でした。だから、俺たちは選ばれて新会社に行くんだ、という気概もあった」
統合相手は、業界中堅規模の会社。最大手のひとつである男性の社に迎える形となった。社内に「ようこそ」と貼り紙をするなどしてあたたかく迎えた。相手企業の出身者をいじめる一部の上司はいたが、営業担当者同士は飲みに行ってすぐに打ち解けた。売り上げの見込みの立て方、見積もりの出し方など、ビジネスの流儀は男性の会社のやり方が踏襲され、男性自身は特にやりづらい思いはなく、統合後も仕事は順調に思えた。
だが、統合から1年経った頃。本社に残った側の人たちが次々と昇格し始めた。一方で、男性の仕事ぶりは変わっていないのに査定が下がり、昇格の推薦基準を満たせなくなった。
あとになってわかったが、採算のとれない新会社の人件費削減のため、査定を一律で1ランク下げるように親会社が指示していたのだった。こんなところにいたらサラリーマン人生が終わってしまう。社会保険労務士やファイナンシャルプランナーの資格を取り、独立も考えていたところ、本社の希望する部署にいた先輩が引っ張り上げてくれた。
「新会社は泥舟みたいなものだった。いくらサラリーマンでも、割を食ってるなと思ったら、そのまま会社に従っていてもしょうがない」
(アエラ編集部)
※AERA 2016年3月21日号より抜粋