「みんなで生きる」という価値観が…(※イメージ)
「みんなで生きる」という価値観が…(※イメージ)

 企業のイノベーションには、自社の役割の「再定義」が不可欠。東日本大震災の被災地に根を張る企業で、この動きが加速している。支援を続けるNPO法人ETIC.の宮城治男代表理事に聞いた。

 宮城県石巻市などでリハビリ関連サービスを展開する「りぷらす」は、「要介護状態からの卒業」がテーマ。患者のリハビリもしますが、地域住民に身体の仕組みや健康法を教え、地域全体で健康を守ろうとしています。

 リハビリだけでも事業として成り立つけれど、彼らは「利益は薄くても地域全体で生きていく」モデルを選んだ。過疎化も進み、所得も高いとは言えない地域で自律的かつ豊かに生きていくため、ビジネスモデルを「再定義」したのです。

 同じ宮城県の気仙沼市で赤ちゃんとお母さんを支援するNPO法人ピースジャムには、職場にキッズルームがあり、子どもと一緒に出勤できます。託児所付きの職場はほかにもありますが、注目すべきはその思想です。東北は、労働者不足が深刻。時給が都心以上に上がり、撤退を余儀なくされた飲食チェーンもあります。資本効率がいい事業でも、働きたいと思う人がいなければ成り立たない。つまり経営者が重視すべきポイントは、「資本効率」から「働きやすさ」に再定義されました。ピースジャムは、子育て世代が働きやすい職場環境を整えたのです。

 過疎化、低所得、労働者不足は近い将来、国内の多くの地域が直面する問題。りぷらすやピースジャムの「再定義」は、広く学ばれるべきです。

 なぜ、東北で「再定義」が進むのか。早く問題が深刻化したことに加え、東日本大震災で生きるか死ぬかの極限状態を共有したことも大きいでしょう。自分がもうかっても、地域が死んだら元も子もない。「みんなで生きる」という価値観が広がりました。

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