「免税御礼」の文字がはためく黒門市場。現在、およそ150の商店が軒を連ねる。商店街振興組合では、有志を募って語学教室も始め大好評。言葉が通じるようになったおかげで売り上げが前年比5倍になった店もあるとか(撮影/楠本涼)
「免税御礼」の文字がはためく黒門市場。現在、およそ150の商店が軒を連ねる。商店街振興組合では、有志を募って語学教室も始め大好評。言葉が通じるようになったおかげで売り上げが前年比5倍になった店もあるとか(撮影/楠本涼)
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 今、外国人観光客に注目されている観光地のひとつが、大阪だ。昨年の来阪外国人旅行者は約716万人(東京は1027万人)と過去最高を記録。インバウンドの隆盛は、日本全国で顕著だが、前年比ベースで見ると、東京の「147.1%」に比べ、大阪は「191.8%」とほぼ2倍の伸びを記録。言うまでもなく、アジアゲートウェイの玄関口である関西国際空港に乗り入れるLCCの影響だ。

 しかし一方で、大阪は経済の地盤沈下が叫ばれて久しい。観光の分野でも、大阪城はあっても、その次がない。結局、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の一人勝ち状態。だからこそ、この商機を逃すまいと、商売人たちは奔走している。

 食い倒れの街・大阪。その「台所」と呼ばれ、織田作之助の「夫婦善哉」をはじめ、数多くの小説や映画にも登場する歴史ある黒門市場(大阪市中央区)。この商店街が今、「アジアの屋台化」しようとしている。

 市場の朝は当然早い。そして、どこか水を打ったような静けさと緊張感がある。元来、この市場は、料亭や割烹などの板前が、舌の肥えた客人を満足させるため足繁く通うプロ御用達だ。とくに早朝は弟子を帯同した板長らしき人物が、神妙な面持ちで食材を吟味している光景に出くわす。しかし、そんな厳粛な空気を軽々と破って、午前7時頃には海外からやってきた旅行客が市場になだれ込む。

 香港からやってきたという20代のカップルが足を止めたのは老舗の鮮魚店。軒先には、朝に仕入れたばかりの、見るからに鮮度のいい海産物が整然と並べられている。すると、カップルは、たどたどしい日本語で店主にこう注文。

「ウニ二つ。アワビ一つ。ホタテ二つ。あと、マグロもください」

 すると、いかにも強面(こわもて)の60代の店主が、ニッコリと笑ってこう切り返す。

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