ミニマリスト佐々木さんのクローゼット(写真:本人提供)
ミニマリスト佐々木さんのクローゼット(写真:本人提供)
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東さんのノームコア・ファッション。気に入った服は色違いで何着も購入する(撮影/編集部・竹下郁子)
東さんのノームコア・ファッション。気に入った服は色違いで何着も購入する(撮影/編集部・竹下郁子)
仲村さんの部屋。アイリスオーヤマのエアリーマットレスはミニマリストの定番(写真:本人提供)
仲村さんの部屋。アイリスオーヤマのエアリーマットレスはミニマリストの定番(写真:本人提供)

スティーブ・ジョブズばりにシンプルな装いで、フランス人ばりに服を持たない若者が増えているらしい。モノから解放され、内面を磨き、己の個性を輝かせるのだ。(編集部・竹下郁子)

 テーブル、イス、布団、扇風機。宇都宮大学農学部2年生の仲村祐一さん(21)の部屋にある主な“モノ”は、この四つだけ。寮や合宿所ではない。驚くことに、一軒家を3人でシェアするイマドキな大学生の部屋だ。

 今、若い世代を中心に、自分に必要な最少限のモノしか持たない「ミニマリスト」が増殖している。仲村さんもその一人。生活を支える三種の神器は、iPhone、MacBook Air、Kindleだ。音楽もスケジュール管理も読書も、かさばるモノは全てデジタル化するのがお作法。高度経済成長期の新三種の神器、カラーテレビ、クーラー、自動車は何ひとつ持っていない。

 クローゼットの中も極めてミニマムで、外出用の服はポロシャツ3着、Tシャツ2着、ジャケット2着、ダウン1着、ハーフパンツ1着、パンツ1着のみ。ほとんどは機能性重視のアウトドアブランドで、これで1年間をまわすというから、「10着しか服を持たない」というあのフランス人といい勝負である。タオルはフェイスタオルを3枚。バスタオルはかさばるから持たないそうだ。

 仲村さんがミニマリズムに目覚めたのは、大学受験の浪人中のこと。一向に伸びない模試の成績にイラつく毎日。現実からワープしようとネットを開き、偶然見つけたのがミニマリストのブログだった。いらないモノを排除して、必要なモノだけを生活空間に置く。そんなシンプルな考えに、なぜか強烈に惹かれた。不安げな両親をよそに、3日後には、持ちモノの9割を捨ててしまったという。

「がらんとした部屋を見て、持ちモノで自分を良く見せたいと思っていたのが、バカらしく思えちゃって。他人の目が気にならなくなったら、自分の意志がクリアになった気がします」

●シャツより美術館

 大学生になった今、3千円のシャツを買うより、3千円を支払ってできる体験に価値を見いだす。他人と差別化するのはモノではなく、自分の中身。だからこそ多様な経験を積み、内面を磨きたいと思うようになった。

 一人で出掛けた東京都美術館の水墨画展で、偶然居合わせたデザイナーの勝岡重夫氏と話し込んだのが忘れられない。デザインが企業に与える影響、海外で得られるチャンスなど、会話の全てを理解できた自信はないが、十分すぎる刺激を受けた。

 社会人との交流会にも積極的に参加する。百貨店勤務、株のディーラー、カメラマンなど、様々な職業の大人たちの話を聞くのが楽しい。

 今、仲村さんは更なる刺激を求めてインドにいる。両国の学生で社会問題を議論する、日本インド学生会議に参加するためだ。担当するのは水道事業のプレゼン。在印中にミニマリストとしても一皮むける予定。

「今はシャンプー、コンディショナー、ボディーソープと3種類使ってるんですけど、インド滞在中に一つの液体石鹸ですべてを済ませる訓練をしてきます」

●過度な主張は敵つくる

 12万部のヒットを誇るミニマリストのバイブル『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』の著者、佐々木典士(ふみお)さん(36)は言う。

「僕自身『モノ=価値』という考え方をやめたら、他人の目が気にならなくなり、コンプレックスからも解放されました。自然体の自分を認めることで、人付き合いもうまくいくように。大切なのはモノより体験。ミニマリズムは目的ではなく、本当に大切な“こと”を発見するための手段なんです」

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