均質化する東大の中であえて異端の道を歩もうとすれば、当然軋轢も生じる。だが、東大はそんな青木さんを「総長大賞」に選んだ。異文化、異なる価値観とのぶつかり合いの中から、自分の道を切り開いたたくましさを評価したのだ。
■藤本征史さん(24)
大学院理学系研究科修士課程2年
「限界を認めて強みを発見 奪った世界一」
「国際的に通用する創造力」を認められて総長賞を受賞したのは、藤本征史さん。
フィールドは、2本の縄を使った縄跳びのチーム競技・ダブルダッチだ。昨年3月に東京で開かれた世界大会で、藤本さんがリーダーを務めた東大生男女6人のチーム「アゲサゲ」が、パフォーマンス部門で優勝した。プロチームを含む国内外の強豪を抑え、学生チームとしては初の快挙だ。
●「ヘンなもの」で勝負
世界が認めた独創性は、自分たちの実力や欠点までを冷徹に見つめることから生まれた。
「僕たちはそれほどうまいわけじゃない。一流チームはライバルの過去の動画も研究して、すごい技を考えてくる。だったら『ヘンなものをつくって、2本の縄で最大限遊ぶぞ!』と。めっちゃ高いか、めっちゃ低い点を取る、とがったパフォーマンスを世界に見せたかった」
バック転や宙返りといったアクロバティックな動きも織り交ぜ、技術や独創性を競うパフォーマンス部門でのスキマを狙う作戦に出た。
重視したのはストーリー性。学生服に紅白帽をかぶった少年少女が体育祭で綱引きや騎馬戦、二人三脚で競う様をユーモラスに表現。すると突然、舞台は2020年の東京オリンピックに移る。紅白帽の少年少女は成長して選手となり、苦闘を経てついに金メダルを取る感動的なラスト。ほかのチームが、プロダンサー顔負けの激しい動きや体操選手ばりの大技を駆使した技術重視の演技を披露するなか、アゲサゲは採点項目の一つ「独創力」で大会史上最も高い得点を記録。ひときわ大きな歓声と拍手を浴びた。
●連日柔道場に通いつめ
そもそも、まだ競技人数も少ないダブルダッチになぜ取り組んだのか。
高校時代バドミントンに打ち込んだ藤本さんは当初、部活の王道ともいえるアメリカンフットボール部やテニスサークルにも関心があった。しかし、最終的にダブルダッチサークル「D―act」に入部を決めたのは、「『本気のサークル』だったから」だ。
飲み会では、みんなが時間を忘れて「自分のダブルダッチ論」を熱く語り合う。年2回の世界大会や、その予選となる国内大会で上位入賞した先輩チームもあった。
「サッカーで世界一はキツイけど、大半の人が大学から始めるダブルダッチなら、頑張れば結果を出せる」
始めた当初は、学園祭専門の「お祭りチーム」として活動し、自身も「すごくストイックにやるという感じではなかった」と語るが、しだいに熱が入るようになった。週2、3回の全体練習以外にも、メンバーは各自ダンス教室や体操教室に通うなどして技を磨いた。藤本さんも連日、講義の合間に連日柔道場に通いつめ、バック転やバック宙の練習を繰り返した。
卒業が迫る13年12月には、リーダーになっていた藤本さんが「大会に出てみないか」と仲間に声をかけた。大学院への進学を控え、卒業研究で大忙しだったが、同期生のチームが別の世界大会で入賞したことに刺激を受けていた。
「楽しいからやってきた。将来、これで飯を食っていくわけじゃない。だからこそ、本気で取り組める今この時にこそ、楽しさを究めなくてはと」