産休・育休からの復職に、ハードルの高さを感じる人もいるのでは。育児と仕事を両立し、そして能力を活かすためには、どんな環境が望ましいのか。取材では、働く母の「些細な不便」も見えてきた。

 育児休暇からの復職者のなかには、キャリア継続や保育園の入園時期を考え、育休を早めに切り上げる人もいる。乳児期の両立は大変で、身体的な負担も大きい。搾乳機メーカーのメデラが2014年12月に実施した調査によると、産後1年半未満で仕事に復帰した母親の約半数が、母乳育児を続けていた。

 母乳育児中は、乳腺炎の予防や母乳の冷凍保存のために、一日数回の搾乳が必要なことがある。調査では、職場で搾乳を経験した人の約6割が「トイレ」で、約7割が「10分以内」に済ませている。「仕事をさぼっているようで後ろめたい」という人も4割弱おり、こっそり搾乳する姿が浮き彫りになった。

「些細(ささい)な不便のようでいて、罪悪感や不安が仕事のモチベーション低下につながりかねません」(メデラマーケティング部長の菅谷さと子さん)

 米国は10年、50人以上の雇用主に対し、1歳までの子どもを育てる母親には搾乳に必要な休憩と場所を提供するよう連邦法で定めた。日本でも日産自動車が09年、横浜市のグローバル本社に「搾乳室」を設置。メデラも2月から約8畳のスペースを「搾乳室」にし、ソファと電動搾乳機2台、冷凍庫を設置した。

 母乳のことを尋ねるとセクハラでは、と上司は踏み込みにくく、一部社員の一時期の搾乳のために場所を提供するのも、企業側の論理では非効率。だが、会社がここまでして復職を歓迎するというメッセージは、子どもと引き裂かれる思いで出社している社員にとっては、会社への信頼感につながるはずだ。

 多様な雇用形態や、制度が整っていない会社もある中で、育休を利用した社員に手厚くするのは「過保護」ととらえる向きもあるだろう。前出の川島さんが社長を務める三井物産ロジスティクス・パートナーズでは昨年4月、11~15時をコアタイムとし、それ以外は上司の許可さえあれば出社しなくてもよい環境を整えた。対象を復職者に限るのではなく、「帰省」も「婚活」も「散歩」も何をしても良し。復職者だけが「特別扱い」されないことも重要だ。

AERA 2015年3月9日号より抜粋