激務のなか不妊治療をして1人目を授かり、その2年後には2人目を出産。高松平和病院では、女性医師で産後復帰したのは、何森が初めてだった。呼び出されると、やむなく長女を連れていくこともあった。次女が生まれ、当直や呼び出しがなるべくない分野への転向を模索。乳腺分野に注目し、超音波検査を併用したところ、通常の3倍もの発見率で乳がんが見つかった。

「私、この分野に向いているかも」

 毎晩、子どもたちが寝静まると、持ち帰った何千もの超音波動画に目を通した。良性と診断された部位の動画画像と、がん化した組織の病変部の画像を、交互に何回も見比べた。

 4年前、がん研から、1年の期限つきで常勤医として呼ばれた時には、仕事を優先する形に。超音波検査体制を改革する役割も期待され、何森の心が揺れた。母親としては「子どもを高松に置いて通うのは…」と踏み出せずにいた。そんな彼女の背中を押したのは、晶だった。

「断るな。家族は苦労するだろうが、君のステップアップにはよい機会だ」

 夫自身も内科医として呼び出しの多い立場だが、週5日の妻の不在を、実母や義母とのリレーで「なんとか引き受けた」。何森は、金曜夜に高松に戻り、週末を家族と過ごした後、日曜の夜にはまた東京へ。がん研に戻ると、娘たちの別れ際の表情を思い浮かべ、「娘たちに寂しい思いをさせているのだから、見合うだけの仕事をしよう」と気持ちを奮い立たせた。

(文中敬称略)

AERA  2014年10月27日号より抜粋

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