ウォルト・ディズニー・ジャパンのぬいぐるみシリーズ、「TSUM TSUM(ツムツム)」が人気だ。その背景には、世界とは異なる日本の「市場」があった。
その日、ウォルト・ディズニー・ジャパンの会議室に、本国のトップが集まっていた。テーブルに並べられたのは、ミッキーマウスやミニーマウス、くまのプーさんにスティッチといった、おなじみのキャラクター。いつもと違うのは、どれも手足が極端に小さく一様にまん丸で、ふわふわしたぬいぐるみだったことだ。
「カワイイ!」「これ、うちの国でもいけるんじゃないか」
次々に、こんな声があがった。ウォルト・ディズニー・ジャパン独自開発のぬいぐるみシリーズ、「TSUM TSUM」が世界に羽ばたく瞬間だった。
2013年10月に発売。ミッキーマウスやミニーマウスなど、歴代ディズニー作品のキャラクターがTSUM化され、14年7月末までに国内で200万個以上を売り上げた。
14年1月にはスマートフォン用パズルゲーム「LINE:ディズニー ツムツム」のサービスも始まった。ランダムに画面上に降ってくるまん丸なキャラクターたちを、なぞってつなげて消していく。日本での先行公開期間を経て、海外40の国と地域で英語版を配信すると、わずか半年で2千万ダウンロードを達成。香港と台湾のアプリストアでは1位になった。パズドラの略称で知られる「パズル&ドラゴンズ」のダウンロード数が、約1年で1千万だったことと比較すると、驚異的なスピードだ。
「顔だけ」も「まん丸」もこれまでなら考えられなかった。ディズニーの著作権管理は厳重だし、黙っていても米国から強力なコンテンツが発信される。横綱相撲がとれるのに、なぜウォルト・ディズニー・ジャパンは独自企画をぶつけたのか。
きっかけは、「市場」が作った。ワールドワイドで見たとき、ディズニーの購買層は圧倒的に子ども。しかし日本では、20歳以上の女性が3分の1以上を占める。「大人の女性」により深くリーチするためには、世界と同じことを漫然とやるのではなく、自らが変わらなければ──。
08年、「大人ディズニー」と呼ばれる日本独自の商品企画が始まる。「YAF(ヤング・アダルト&フィメール)」とも呼ばれる層に向けて、専門のディズニーストアが開店した。
展開するアイテムは、シンデレラやラプンツェルなど、ディズニーのプリンセスをモチーフにしたアクセサリーだが、一見してそうとはわからない。「さりげなさ」がポイントなのだ。
「オンでもオフでも、大人の女性が日常使いできる商品。世界観や象徴する色は反映しながら、デザイン性の高い商品として開発してきました」(ディズニーストア マーケティング/プロモーション シニアマネージャー八木章次さん)
冒頭の「TSUM TSUM」も、実は「大人ディズニー」の一環だ。目指したのは「オフィスでの癒やしグッズ」。丸いディテールは日本独特の「かわいい」という美的センスと親和性が高く、ふわふわの触感はストレス解消にうってつけだ。Sサイズはぬいぐるみの底面をパソコンやスマホのモニタークリーナーにするという仕掛けも含め、すべて日本でデザインされた。
ここまでのキャラクターの再構築は大胆すぎるようにも思えるが、広報担当者によれば、「ディズニーは常に変化を求めてきた企業。だからこれらの開発も、自然なことなんです」
※AERA 2014年9月8日号より抜粋