ビジネスでアジアを訪れれば、いまや英語力は欠かせない。最近は欧米ではなく、低コストのアジアで英語を学ぶ動きもある。
アジアには、英語を母語や公用語として使う国がたくさんある。オーストラリアも含めれば、英語人口は数億人に達するだろう。その意味では、アジアは立派な英語圏である。
アジア英語は国ごとに特色がある。植民地統治を受けた「英系」と「米系」の違いがあるうえ、ローカル言語から文法や単語の「流用」も頻繁に行う。以前はそんなアジア英語を「亜流」と見下す感覚があった。しかし、いまはその価値を認め、語学研修にアジアを選ぶ企業が日本で増えている。
新日本有限責任監査法人は昨年から会計士や人事、経理担当者150人をフィリピンのマニラへ4週間派遣している。フィリピンは低コストでマンツーマンの授業を受けられる。顧客企業のアジア進出が相次ぎ、現地に同行する会計士も増えたので実地訓練にもなる。
「研修の目的は、英語でのコミュニケーションの心理的ハードルを下げること」(人材開発本部の高須邦臣さん)
マニラやセブで、英語学校を運営するEIEN。
「ノンネイティブ(英語を母語としない)の人たちと会話する機会が増えているなか、基本的な英語力に加え、相手の文化を理解でき、論理的にコミュニケーションできる人材を育成したい」
法人に特化した研修のための現地スクールを昨年開講した。交渉やプレゼンテーションなど個人のニーズにあわせたマンツーマン指導を提供する。大手企業など80社以上が利用している。
大阪取引所でIT開発を担当する岡聖也さん(26)は同校で3カ月の語学研修を受けている。職場でインドやシンガポールの取引先から英語の電話を受けたときは、なまりの強い英語でまくし立てられると、つい「メールで内容を送ってください」と返していた。
ところが、フィリピンでスピードのある英語に対応するうちに「ちょっと待って」「私が考えるには」と、間のとり方を工夫して、その間に主張したいことを考えるようになった。
気を付けているのは、ニュアンスだ。どんな話がタブーなのか。内容はポジティブなのか、ネガティブなのか。「文脈を読む」スキルを学んでいる。
アジアのような多様性のある英語環境で、どんな状況でもしなやかに対応できるようになるにはどうしたらいいか。前出のEIEN現地校の主任教師を務めるデニス・ガランさんは言う。
「現地では、ビジネスや生活の中で、議論したり、値段の交渉をしたり、異文化コミュニケーションの場はたくさんある。短時間でも相手といかに信頼感(ラポール)を築けるかが重要です。心構えとしては、カスタマーサービス担当者になったつもりで対応すると効果的。最初は相手の言葉を注意深く聞き、相手の立場を考えつつ、自分の主張をできることが大切です」
※AERA 2014年8月25日号より抜粋