●診療報酬改定の余波

 しかし、安易な新設はリスクを伴う。
 典型例が04年度に誕生した法科大学院だ。少子化に悩む大学には学生集めの切り札と映り、74校が「乱立」した。だが、司法試験合格率は平均20%台に低迷。学生離れが加速し、募集停止が相次いだ。今年度の入試では67校が学生を募集したが、61校が定員割れし、うち44校は半数にも満たなかった。こうしたことから先の小林さんは、
「本来、看護師の国家試験の合格率は100%に近いが、すでに一部の大学では合格率が60%、70%台のところも出ている。今後、合格実績の低い大学は、法科大学院のように定員割れを起こし募集停止になりかねない」
 と「新設ラッシュ」に懸念を示す。
 そして気になるのが、増え続ける看護師の数だ。
 病院で勤務する看護師14万人が余る──。
 そんなセンセーショナルな試算を、医療コンサルティングの「グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン」(東京都港区)が行った。
 同社の渡辺幸子社長は言う。
「国が描く改革のシナリオをベースに試算した結果です」
「改革のシナリオ」というのが、4月の診療報酬改定だ。
 診療報酬とは、医療機関や薬局が健康保険組合や患者から受け取る代金のこと。原則として2年に1度、改定が行われるが、4月の改定では看護職員数の配置基準も変わった。

●ジェネラリスト目指せ

 国は06年度、高度な医療と集中看護で入院日数を縮め医療費を抑える狙いで、7人の入院患者に対し看護師1人を配置する「7対1病床」の区分を新設。入院基本料も大幅に増額し、それまでもっとも高かった「10対1病床」の1・2倍にした。その結果、増収をあて込んだ多くの病院が7対1病床に飛びついて病院間で看護師の争奪戦が起き、さらなる看護師不足を招いた。
 7対1病床の増加は、そのまま医療費にも跳ね返った。12年度の医療費の総額は過去最高の38兆4千億円。7対1病床に関する政策は明らかな失策だった。
 すると厚労省は手のひらを返し、今年4月の診療報酬改定で、7対1病床を約9万床に当たる25%減らす方針に転じたのだ。すべての団塊の世代が75歳以上になる「2025年問題」に備え、自宅に戻る患者の多い病院に対する評価を高くするほか、在宅医療に取り組む診療所にも診療報酬を手厚く配分するとした。
「訪問看護師の需要が高まり、日本全体で看護師が余るわけではありませんが、そのことは病院で働く看護師が余る可能性を示しています。その数が、25年は最大で約14万人となるのです」(渡辺社長)
 では、病院で働き続けるにはどうすればいいのか。実際、多くの看護師は「病院で働きたい」と本音を漏らす。訪問看護師は「高齢者の介護」のイメージが強く、給与も病院看護師の8割程度だ。
 グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン監修のもとに作成した「病院看護師として生き残るための4カ条」(文末 資料2)をご覧いただきたい。診療科別の病棟から混合病棟になる流れが想定されるため、専門職としての立場だけではなく、ジェネラリストになる能力・順応性を持つことが求められているという。さらに、看護部長を目指したり、生き残れる病院を見極めたりするなど、病院看護師として生き残る道は少なくない。

●訪問看護を魅力的に

 一方で渡辺社長は、訪問看護師の必要性も強調する。
「病院に残る視点も大事だが、高齢化が進む中、むしろ訪問看護師にやりがいや価値を見いだせる仕組み作りが大事」
 そのためには、現場と行政が「在宅医療」のさらなる普及に努め、在宅医療を支える環境を整えるなど、やるべきことは多いと指摘する(文末の資料3「訪問看護師の仕事を魅力的にするための5カ条」参照)。

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