東京大学とハーバード大学、どちらも日米それぞれでの最高峰の大学だ。しかし、そこで育まれるものは大きく異なるようだ。多くの東大合格者を出す、開成中学・高校の柳沢幸雄校長は、その差を次のように話す。
* * *
日本人の能力は素晴らしい。開成高校の卒業式で、「君たちは18歳の集団としては、世界一。知識も人格も世界一。米国のハーバードやMIT(マサチューセッツ工科大学)の新入生より能力がある。ただし、4年後に世界一かどうかはわからない」と話します。
昔からの進学校を出た生徒は勉強のしかたを身につけているので、大学の授業を非常に簡単にこなすことができ、勉強しなくなります。
日本の大学は、4年間の教育を保証して卒業させるシステムになっていません。厳しい試験を受けて「入学した」ことを保証しているだけで、いわば中学高校の教育の品質保証をしているようなものです。18歳時の保証がそのまま、大学卒業時にまかり通る。国内なら「東京大学卒」に対する共通認識があり、その中身は問われないかもしれません。
米国は逆で、大学の入り口は玉石混交で、可能性があれば受け入れるという方針ですが、出口できっちり品質管理をする。勉強しない人は卒業できない。一定の成績をとった人だけが卒業できます。
野球のメジャーリーグの優勝決定戦をワールドシリーズというように、米国のトップは世界一でなければならないという意識が強い。教育も同じ。ヨーロッパ、アフリカ、アジアのどこでも、社会的、文化的背景が違う場所で立派に通用する知識を身につけさせる。ハーバードの名前を知らない人に対して、何ができるのか、で勝負する。
学生も高い授業料を払って投資した分、リターンを求め、懸命に勉強して学問を身につける。
ハーバードでは学生の授業評価を一覧表にして、翌年の学生に配ります。学生はそれを見て授業を選択する。学生が5人集まらないと開講できないので、学生の評価が低い教授は授業ができない。授業がないと、その分、教授の給料が低くなります。教授も真剣です。学生は、非常にまじめにきちんと評価することで、大学の講義の質が維持されるようにします。これも、自分が選んで投資した大学の質を守るためです。
企業が大学に求めるものを変えれば、大学も変わります。これまで日本の社会は大学にあまり教育を求めず、自由に過ごせばいいと考えてきましたが、変わる時期にきているのでは。
※AERA 2014年6月16日号より抜粋