膠着状態から、動きをみせ始めた拉致問題。援助目当てとの見方もあるが、実は北朝鮮の経済改革は順調だ。中国や米国、日本との「バランス外交」が狙いか。
日本政府は29日、北朝鮮が拉致被害者などの安否を「包括的かつ全面的」に再調査すると日朝外務省局長級協議で約束したことを明らかにした。北朝鮮は特別調査委員会を近く設置し、菅義偉官房長官は「1年以内」に結果が出ると断言した。
北朝鮮はなぜ日本に歩み寄ったのか。日本では「北朝鮮が経済的苦境からの脱却を狙った」「援助目当てでは」との分析も目立つが、本当にそうだろうか。
5月1日、韓国の亜洲経済というメディアが、中国の崔応九・北京大学朝鮮文化研究所名誉所長に取材した記事を流した。
崔氏は「金正恩(キムジョンウン)政権は予想外に早く安定化した」「最近20年で北朝鮮の経済は最も良い」「食糧事情も良くなって、住宅供給が増え、車の運行台数も増加し、新たに開業したレストランも目立つ」などと楽観論を展開。故・金正日(キムジョンイル)総書記と親交があり、中国の朝鮮研究の大ベテランだけに発言は注目を集めた。
対中窓口だった張成沢(チャンソンテク)氏の処刑で中朝関係が緊張し、今年に入って中国からの原油輸入が止まった、との情報もあるが、三村光弘・環日本海経済研究所調査研究部長は「実際は油を送っているが、4度目の核実験をさせない『警告』として中国は数字をゼロにしている」と語る。
拉致再調査に踏み切った動機について、三村氏は「繊維や日用品などの軽工業では活気が出ている。独力では難しい重工業や鉱業、エネルギー産業の再建で日本の協力が必要な段階に入ったのではないか」。北朝鮮の経済に詳しい李燦雨・東アジア貿易研究会客員研究員も「経済の苦境が原因で拉致問題の譲歩をしたというより、経済改革に自信を深め、日本と関係改善に臨むとの発想だろう」。
日朝の交渉進展は金正恩第1書記が力を入れている「バランス外交」の一環とも見られる。
※AERA 2014年6月9日号より抜粋