間もなく開幕するサッカーブラジルW杯。元日本代表主将・宮本恒靖さんに、独自の視点での展望を聞いた。
ネイマールらを筆頭に、能力の高い選手が集まることから優勝候補の「鉄板」とされるブラジル。しかし、ブラジルの強さは、そうした「個」の強さだけではない。
宮本:ブラジルのルイス・フェリペ監督は、12年前の日韓大会でファミリー的な雰囲気のチームをつくり優勝しました。1997年にはジュビロ磐田の監督も務めましたが、厳しさと温かさをあわせ持ち、一体感のある組織をつくるのが得意です。得点の後のベンチのシーンを観れば、控え選手、スタッフを含めて全員が心から喜んでいるのがわかります。その家族的な雰囲気の中で、気持ちよくプレーしているのが天才的な「末っ子」というべきネイマールです。能力のある選手をフルに生かそうと一つになる周囲の選手も本当の「プロ」ですが、そうした空気をつくるのが監督の役目なのです。
ネイマールと対照的な立場にいるのが「アルゼンチンの至宝」メッシだ。所属のバルセロナとアルゼンチン代表でプレーするときの顔つきを見れば位置づけがわかる、と宮本さんはいう。
宮本:MFシャビ、イニエスタら充実した戦力の中での「弟分」的な立場であるバルサと違い、アルゼンチン代表での立場は長兄に近い。前回大会でいいところなく敗退し「バルサでのメッシとは別人」と批判されたこともプレッシャーになっているはず。監督が「メッシのためのチームをつくる」と公言してきたことも、本人を追い込まなければいいのですが。
アルゼンチンのサベージャ監督は、スーパースターのマラドーナの好みに従って選手選考をして優勝した1986年大会にならい、「メッシが一緒にプレーしやすい選手」を基準にチームを編成してきた。
宮本:チーム全体に「メッシ頼んだぞ」という依頼心が感じられるのです。本人も肩に力が入ったプレーが見受けられます。メッシが敵陣で前を向いてプレーできていれば上位進出の目はありますが、自陣まで下がってきてパスを受けるような場面が目立つようだと、黄信号でしょう。
※AERA 2014年5月26日号より抜粋