2億9800万円──。税理士選びを失敗したために、ある一家が過剰に払った相続税である。亡くなった親が残した土地に、最初に依頼した税理士が、適切な評価を大幅に上回る評価額をつけたからだ。もちろん、これは相当な資産家の話だが、2015年の税制改正により、相続税の対象者が首都圏では倍増するといわれる。「税理士なら、だれでも同じだろう」と油断をしていると、大変なことになりかねない。

「ほとんどの税理士は、企業の税務が本業で、個人の相続税は非日常業務です。年間2件以上の相続税申告を手がける税理士は50人に1人いるかどうか」

 こう語るのは、相続専門の事務所「相続ステーション」代表で税理士の寺西雅行さん。同社は、年間80件前後の相続税申告や遺産整理業務を扱う。この10年間は、他の税理士が相続税申告したあとに再チェックを依頼されるケースや、顧問税理士とは別に“セカンドオピニオン”として検証を求められるケースが増えたという。それだけ税理士選びの重要性が増している。

 寺西さん曰く、税理士を選ぶポイントとして重要なのもののひとつが、相続税の専門家か否か。税理士試験において「相続税法」は選択制で、合格している税理士は「推定で10人に1人」と寺西さんは言う。相続税法に精通した税理士でなければ、財産の評価や遺産分割に疎いことがあり、遺産分割協議(相続人の話し合い)がうまくいかない原因にもなる。

「財産が現金だけなら、まだいいのです。法定相続といって、配偶者2分の1、残りの2分の1を子どもが等分し、決まった額を納税して済むことがあります。しかし、不動産がある場合は、税理士の評価と遺産分けの助言次第で、納税額や相続方法が大きく変わります」

 もっともよくあるのが、土地の評価の失敗だ。冒頭の2億9800万円の過払いは、寺西さんがセカンドオピニオンとして受けた案件で、幸いなことに相続税の還付請求制度で減額が認められた。だが、最初の税理士選びを間違えなければ、過払いは避けられたはずだ。

「相続税申告を任す税理士には、最低でも年に10件の実績は欲しいところです。相続は自分だけでなく、後の代にも影響します。臆せず、単刀直入に質問してみるといいでしょう」(寺西さん)

AERA 2014年1月27日号より抜粋