今年もやって来た年賀状を書く季節。でも、下手な文字を書くのは憂鬱なもの。そんな悩みを解決すべく、記者が「美文字の達人」に、マンツーマン指導をしてもらった。
指導してくださるのは、著書の『30日できれいな字が書けるペン字練習帳』シリーズ(宝島社)が累計269万部を突破した書家・中塚翠涛さん。タレントさんに字を指導するテレビ番組でもおなじみだ。
取り組む「お題」は、「謹んで新春のお慶びを申し上げます」である。まず1枚、書いてみた。字にはその人の性格が出るという。これを見て中塚さん、
「手に取る人が読もうと読むまいと構わない、という感じの字ですね(笑)」
言われてみれば、確かにそんな気もする。中塚さんは黒ペンと赤ペンでひと文字ごとに、気がついたところを丁寧に添削してくれた。
「ひらがなは文章の70%を占めます。『の』『ん』『し』『す』、どれも最後の払い方が大事です。あと、テンを打つ時に雑になる癖があります。丁寧に書くことが大事です」
「漢字の最後のところが投げやりになってます。そこを丁寧に書くだけで、まとまって見えるのです。途中で失敗したときこそ、それが大事です」
「ひらがなと漢字を同じ大きさで書くと、ひらがなが必要以上に大きく見えます。だから、ひらがなは少し小さめに書いた方がいい。とくに『春』のあとの『の』を」
ここで中塚さんが赤ペンでサラサラと「お手本」を書いてくれた。それを横に置いて見ながら、再び挑んでみた。
「ずいぶんとよくなりました。『の』がいいですね」と、花丸をくれた先生。
「最後の『す』は逆三角形になっていて、いいですね」
「す」は逆三角形を意識して書いた方がいいという。「す」が、胸を張って大見得を切ったボディービルダーに見えてくる。
「お手本」を家に持ち帰り、メモした指摘の数々に気を配りつつ、深呼吸して「お題」を一日5枚、1週間書き続けた。時間にすれば一日10分程度だが、やってみると意外に疲れる。「病は気から」というが、字を書くのも「心の持ちよう」が重要なのだ。気がつくと、一番ダメと思っていた「謹」の理想のイメージが、自然と思い浮かぶようになったから不思議だ。
※AERA 2013年12月23日号より抜粋