大胆不敵な若さと茶目っ気
Abyss/Chihiro Yamanaka
今やりたいことを思いっきりぶちまけた、みたいな、若さと茶目っ気がすがすがしい。 山中千尋って、実はかなり過激なマインドの持ち主なんですねえ。
まず驚くのは、ピアノ・トリオというシンプルな編成のくせに、サウンドがものすごくカラフルなこと。ピアノ、エレクトリック・ピアノ、オルガンなどを使い分け、その上ピアノの音にエフェクトをかけて、多彩な音色を作り出しているのだが、そのあしらいが実にセンスがよく、時には「え?」と思ってしまうほどに大胆なところがうれしい。シタールのような不思議な音色は、ピアノの弦に鎖を装着してひずみを生じさせ、その上にさらに音を変調させたピアノを重ねているらしい。
アレンジや演奏自体もかなーりぶっ飛んでいる。いちばん可笑しいのは、7拍子のハード・ロック(!)風で、しかもテンポがどんどん変わっていく《シング、シング、シング》だ。スウィング・ジャズの名曲がなんでこうなるの?と呆れてしまうが、さらにおもしろいのは、イントロ部分にシカゴの《サタデイ・イン・ザ・パーク》が引用されていること。ご本人に訊いてみたら「曲の雰囲気がラヴ・アンド・ピースなんで、時代的に合うかな、って」と言っておりました。わははー。しっとりとしたバラードや、オーソドックスなフォービート・ナンバーでのストレートなプレイも入っているけど、今回の聴きどころは「大胆不敵」ぶりでしょう。次回はもっと徹底的にはじけてほしい!
【収録曲一覧】
1. ラッキー・サザン
2. ザ・ルート・オブ・ザ・ライト
3. シング、シング、シング
4. テイク・ミー・イン・ユア・アームス
5. フォー・ヘヴンズ・セイク
6. ジャイアント・ステップス
7. アイム・ゴナ・ゴー・フィッシン
8. フォレスト・スター
9. ビーイング・コールド
10. ダウンタウン・ループ
山中千尋(p)
ビセンテ・アーチャー(b)
ケンドリック・スコット(ds)
2007年5月、ニューヨークにて録音