ベッドで、妻の礼子さんに支えられながら筆談をする篠沢さん。夫婦のこれまでの歩みを記した『明るいはみ出し』(静山社)も病床で書き上げた(撮影/写真部・東川哲也)@@写禁
ベッドで、妻の礼子さんに支えられながら筆談をする篠沢さん。夫婦のこれまでの歩みを記した『明るいはみ出し』(静山社)も病床で書き上げた(撮影/写真部・東川哲也)@@写禁
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「クイズダービー」の名物解答者として人気を集めた篠沢秀夫・学習院大学名誉教授(79)。難病のALSだと告白してから3年近くたった今、希望が見えてきた。

 山中伸弥・京都大学教授がiPS細胞の作製に成功した功績で、ノーベル医学生理学賞の受賞が決まり、日本中が沸いた10月。病床で感慨ひとしおだった人物がいる。篠沢秀夫・学習院大学名誉教授だ。

 篠沢さんの本業はフランス文学者だが、視聴率が毎週のように30%を上回った往年のクイズバラエティー番組「クイズダービー」のレギュラー解答者として覚えている人も多いだろう。珍答迷答ぶりや柔和な人柄で一躍、茶の間の人気者になった。

 その篠沢さんは現在、筋萎縮性側索硬化症(ALS)という難病で闘病している。

 ALSは進行性の病気で、現時点で有効な治療法はない。進行を止めることもできない。いったん罹患(りかん)すると、意識や五感は正常なまま、全身の筋肉が衰えていき、最後には呼吸筋がまひして、死に至る。1年間に10万人に1人の確率で発症するといわれ、原因もわかっていない。

 そこへ、iPS細胞によって、ALSの治療法が開発される可能性が出てきたのだ。

 実は、山中さんと篠沢さんは以前から接点がある。山中さんは、どうしても治したい病気として、ALSに照準を据えている。講演では必ず、「クイズダービーの篠沢教授」の病気としてALSを紹介し、篠沢さんの闘病中の様子をスライドで示しながら、iPS細胞を使ったALS治療の意義を強調する。

 研究の進展は、篠沢さんの闘病生活を支える希望の光だ。とはいえ、山中さんもiPS細胞の実用化には10年程度かかるとしている。現在79歳の篠沢さんが治療を受けられるかは微妙だ。それでも、達観している。

「運命です。人間は皆死ぬのだから、先のことは、まったく心配していません。もし間に合わないとしても、自分がぶつかる死を受け入れるのみ」

AERA 2012年12月3日号