
英語や数学などの学習塾に通わせるのと同じ感覚で、体育の苦手な子どもたちを運動専門の塾に通わせたり、家庭教師をつけたりするケースが最近増えている。
東京都内に住む小学5年生の男子は1年ほど前から、世田谷区にあるスポーツ教室の「スポーツひろば」で週1回、発達障害やその傾向がみられる子どもたちを集めた専門のクラスに通っている。
小学2年生の男子は学校では普通学級に通っているが、3歳のとき、専門医に広汎性発達障害と言われた。体の動かし方もぎこちなく、幼稚園で跳び箱が跳べなかった。
こうした子どもたちが通う「ひろば」は、体育が苦手な子にクラスや個人指導としてマット運動や鉄棒、ボール投げなどを教えようと3年前に発足した。もともと個人指導をしていた子どもの保護者から、「実は発達障害の傾向がある」と打ち明けられるケースが年々増えてきて、発達障害やその傾向がある子どもたち向けのクラスを新たに設けたのだという。
ひろばの代表でコーチも務める西薗一也さん(34)は言う。
「最近は、犯罪に巻き込まれないように親が外で遊ばせないことも多いので、子ども同士で遊びを通じたコミュニケーションを訓練することもできず、家の中で一人でゲームに熱中して、子どもがスポーツに接する機会が減っています。その結果、全体的に体が硬い子が多いですね」
見学させてもらうと、教室ではケンケンでポールの間を跳び歩いたり、片足でできる限り立っていたり、バランス感覚を育むメニューが1時間の授業の中で続けられた。
「単に運動が苦手だという子は、できなくて友達に悪口を言われた、教師から『何でできないの』と言われ続けた、など過去に嫌な思い出があることが多く、その思い出を取り除いてあげて自信をつけさせれば、すぐに得意になることが多い。しかし、発達障害で運動が苦手な子どもに『しっかりやれ』と気合を入れても意味がない」
と西薗さんは言う。
「運動することで達成感を味わい、一時的に脳の興奮状態をつくり、その後、心と体を静かに落ち着かせる訓練を長い時間かけてすることが大事です。そうした経験が、社会人として生きるために、基本となる力を身につけさせることにもつながると思っています」
※AERA 2012年11月26日号