神奈川県逗子市で起きたストーカー殺人事件。被害者の三好梨絵さん(33)は、ストーカー被害の深刻さを警察に分かってもらえず、悩んでいたようだ。

 結婚を約束したのに別の男と結婚した。契約不履行で慰謝料を払え──。

 今年3~4月、逗子市の三好さん(33)のもとに、元交際相手の小堤英統(こづつみひでと)容疑者(40)から、こんな文言のメールが1089通届いた。三好さんから相談を受けていたNPO法人「ヒューマニティ」の理事長、小早川明子さんはこうアドバイスした。

「すぐに警察に行って。身柄確保してもらえるはずだから」

 小早川さんがこう言ったのにはわけがある。小堤容疑者は昨年、三好さんに対する脅迫容疑で逮捕され、ストーカー規制法違反でも警告を受け、「今後はストーカー行為をしない」という上申書も提出していた。それを破ったのだから、警察が検挙するのは確実だと思えた。だが、小早川さんが三好さんから連絡を受けた内容は全く違った。

「警察は動いてくれない。毎日が不安です」

 ストーカー規制法は電話やファクスを繰り返す嫌がらせを禁じているが、メールは対象外。「殺す」などすぐに違法性を問える文言もないとして、逗子署は捜査対象ではないと判断した。同署は三好さんに、小堤容疑者への「口頭注意」を提案したが、三好さんは今年6月、警察に「静観してほしい」という要望を出していた。小早川さんは言う。

「三好さんは、相手を刺激することを非常に恐れていた。相談を受ける他のケースでも、被害者が警察に相談し、警察が口頭注意や警告をしたことで相手が逆上して、さらに行為がエスカレートすることもあり、もうこりごりだという人もいる」

 警察はストーカー犯罪を甘く見ているのではないか。小早川さんが相談を受けたある女性は神奈川県内の警察署に、1日80回も電話がかかってくる被害を訴えたところ、こう返された。

「10分に1回は電話がないとストーカーにはなりません」

 アエラが神奈川県警に確認したところ、「個別事案で判断しています」という回答。「10分に1回」は規定されているわけではないが、窓口ではこう言われてしまう。別のケースでは、

「家の前で待ち伏せされる」と被害者が訴えたところ、「道だから、たまたま立っていることはあります」と警察から言われた。

 対応は担当者の姿勢や警察署長の考えによるところも大きい、と小早川さん。緊急時は、被害を窓口に訴えて無視されるより、110番通報して記録に残すほうが有効な場合もあるという。

AERA 2012年11月26日号