「畳屋は継がなくていい、自分の好きな道を探せ」。そう言ってくれた父だった。だからこそ、やっと見つけた好きな仕事をものにしたい。無垢な、しかし鬼気迫るような思い。北野監督はそれを受け取ってくれたのか。アメリカから帰ったあとは「ソナチネ」「HANA-BI」「BROTHER」など立て続けに重要な役を任せてくれた。寺島さんは、北野映画の“顔”として知られるようになり、著名俳優として階段を上り始めた。
「寺島は粘り勝ちだな」
これはベネチア国際映画祭で「HANA-BI」がグランプリを獲ったときに北野監督がかけてくれた言葉だ。
「胸がいっぱいになった。ちょうど出会って10年目くらいで……うん。この映画祭も俺は自費で参加したけど(笑)。バカやろうだね。単細胞だから一つの回路しかないんだと思う。フリーになったとき、とことん孤独を感じて、胡坐(あぐら)かいてちゃ何も始まらねぇ、行動あるのみ、ってことに気づかされた。運と行動力だけでやってきました」
バイプレイヤーとして様々な作品で足跡を残してきたが、気づけば主演を務めることも増えた。現在放送中の連続ドラマ「駐在刑事」もそうだ。2時間ドラマとしてスタートしたが、視聴者の支持を得て連続ドラマとなり、シーズン2に突入している。
「ありがたいですよね。スタッフ、キャスト、すっかりチームになって。今は主役一人が引っ張るよりは、出演者全員の力を借りて、全員野球で盛り上がるほうが、見ている人にも喜んでもらえる。もちろん、主役の責任はあるから台本の読み方も変わるし、常に全体を俯瞰していますけどね。主演のときは周りに感謝しつつ、脇に回ったときは、できる限り主演をサポートする。役割の違いを忘れずに、バランスよく仕事できたらいいなと思いますね」
俳優を志して20年余り、人生で一番大事なものは仕事だった。結婚なんて想像もできなかったが、人生は思いがけないことの連続だ。46歳で良縁に恵まれ、今は2児の父となった。
「その辺は本に書いてあるから読んでください(笑)」
また照れが出る。しかし、1週間のスケジュールを見ればよい夫、よい父親であることは一目瞭然だ。結婚後は顔つきや、発する空気感が変わったことを指摘されることも増えた。
「独身の頃は常にピリピリして、それが顔にも出てたと思う。結婚して我慢することを覚えましたけどね!(笑)。子育てが落ち着いたら俺の新しい章が始まると思ってる」
いい年の取り方をしたい、と言う。
「まぁ、俺なんか40過ぎてやっと食えるようになった人間だからね。今いろんなことがうまくいかなくてモヤモヤしてる人に読んでもらって、元気になってもらえたらいいなって思いもある。誰にでも可能性はあるんだなとか、出会った人に感謝しようとか、そんな気持ちになってくれたら最高だね」
しみじみと抱く思いが、いなせな江戸弁で響いてきた。